ブガッティ・EB112

ブガッティEB112：伝説の4ドアサルーン

ブガッティEB112は、1993年にその姿を現した、世界を魅了した4ドアファストバックサルーンのコンセプトカーです。その誕生には、イタルデザインの巨匠、ジョルジェット・ジウジアーロ氏の存在が大きく関わっています。ブガッティはEB110のサルーンモデルのデザインをジウジアーロ氏に依頼。ジウジアーロ氏は、往年の名車ブガッティ・タイプ57 ギャリビエを彷彿とさせる、洗練されたレトロスタイルのデザインでEB112を創造しました。

EB112のボディは軽量で堅牢なオールアルミ製。シャーシには、スーパーカーEB110と共通のカーボンファイバー製シャーシを採用することで、優れた走行性能を実現しています。1994年には、新生ブガッティのオープニングセレモニーで東京の街をパレード。その堂々たる姿は、多くの人の心を掴みました。

希少価値と驚愕の価格

EB112は、わずか3台のみ製造された超希少車です。そのうち、2021年にはアンスラサイト色の1台が、ドイツのディーラーを通じてロシア人コレクターに約3億2000万円というセダン史上最高額で売却されました。この価格は、EB112が持つ特別な歴史と稀少性を如実に物語っています。

3台のEB112の内、黒色の1台(s/n 39003)は、公道走行が可能な唯一のモデルとして知られています。かつてギルド・パランカ・パストール氏が所有していたこの個体は、モナコで目撃された後、ドイツ人のMarc Gindrof氏に売却されました。残りの2台、ブルゴーニュ色(s/n 39001)とアンスラサイト色(s/n 39002)は、それぞれ異なる所有者の元で大切に保管されています。特に、ブルゴーニュ色の個体はイタルデザインが所有しており、その歴史的価値は計り知れません。

強力なパワートレインと卓越した走行性能

EB112は、フォルクスワーゲンが設計したV型12気筒エンジンを搭載。最高出力456PS、最大トルク649Nmを発生するこのエンジンは、EB110のエンジンをベースに排気量を6.0Lに拡大し、さらに改良を加えられています。各シリンダー5バルブという高度な技術も採用されています。

フロントエンジンレイアウトながら、エンジンを車体中心寄りに配置することで重量配分を最適化。4輪駆動システムと相まって、0-100km/h加速4.3秒、最高速度300km/hという圧倒的な走行性能を実現しています。ロマーノ・アルティオーリ氏（当時ブガッティ会長）は、そのハンドリングについて「まるでゴーカートのよう」と評したと伝えられています。

コンセプトカーから伝説へ

1993年ジュネーブモーターショーで発表されたEB112は、その型破りなデザインから賛否両論を巻き起こしましたが、オートモビリア誌からは「世界で最も美しい車」と称賛されました。コンセプトカーとして開発されたEB112ですが、3台の試作車が製造されました。ブガッティの倒産後、未完成だった2台はパストール氏のモナコレーシングチームによって完成されています。完成した3台のうち、ブルゴーニュ色の個体はテールライトがバンパーに一体化されているなど、細部においてデザインに違いが見られます。

EB112のデザインは、後継モデルであるEB218や16C ガリビエールなどにも受け継がれ、ブガッティのブランドアイデンティティを確立する上で重要な役割を果たしました。EB112は、その稀少性と圧倒的なパフォーマンス、そして美しいデザインによって、これからも自動車史に燦然と輝く伝説のモデルであり続けるでしょう。

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