ブッシュカン

ブッシュカン（仏手柑）: 奇妙な形と芳香を持つ柑橘類

ブッシュカン、別名仏手柑（学名: Citrus medica var. sarcodactylus）は、ミカン科ミカン属に分類される常緑低木です。レモンに近縁のシトロンの変種であり、その名の通り、仏陀の手を思わせる独特の形状が最大の特徴です。インド東北部を原産とし、濃黄色の果実は長楕円形で、先端が指のように分かれた形状をしています。この特徴的な姿から、英語では「Buddha's hand（仏陀の手）」や「fingered citron（指のあるシトロン）」とも呼ばれています。

ブッシュカンは、主に観賞用として栽培されています。その美しい姿は、茶道における生け花や、正月の飾りとして用いられることもあります。独特の芳香も魅力の一つで、鑑賞するだけでも、その存在感を際立たせます。

一方で、食用としても利用されます。ただし、果肉は少なく、生食には向きません。そのため、砂糖漬けやマーマレード、ドライフルーツなどにして加工されることが一般的です。独特の風味を生かした菓子や、芳香を活かした料理にも使用されます。

さらに、ブッシュカンの果皮は薬用にも利用されています。乾燥させた果皮は「枸櫞皮（くえんひ）」と呼ばれ、芳香薬、矯味剤、矯臭剤として古くから用いられてきました。また、枸櫞皮から抽出される「枸櫞油（くえんゆ）」は、淡黄色で苦みと独特の香りを持ち、同様に矯味剤や矯臭剤として利用されています。

日本のブッシュカン生産量は比較的少なく、2010年の農林水産省特産果樹生産動態等調査によると、収穫量は5.0トンで、全て鹿児島県での生産となっています。ただし、これは50a以上の栽培地域を対象とした調査であり、和歌山県などでも小規模な栽培が行われており、京阪神や関東地方にも出荷されていると考えられます。

なお、高知県四万十川流域で栽培されている「ぶしゅかん」は、ブッシュカンとは異なる品種で、「餅柚」と呼ばれる緑色で球状の果実です。ブッシュカンと区別するためにひらがな表記が用いられることが多く、ブッシュカンを手仏手柑、ぶしゅかんを丸仏手柑（シトロン）と呼ぶこともあります。安徽省鳳陽県には、観音菩薩が自ら切り落とした美女の手という伝説も残されています。

ブッシュカンは、その独特の形状と芳香、そして薬用としての利用など、多様な側面を持つ柑橘類です。観賞用としての価値も高く、近年ではその希少性も相まって、より注目を集めていると言えるでしょう。

芸術におけるブッシュカン

ブッシュカンの独特な形状は、多くの芸術家にインスピレーションを与えてきました。例えば、写真家の野島康三は1930年に「仏手柑」という作品を発表し、その後の現代美術家、森村泰昌も野島康三の作品を元に「フィンガー・シュトロン（ノジマ）1-4」という作品を1990年に発表しています。このように、ブッシュカンは、その美しさや象徴性から、芸術作品としても重要な役割を果たしていると言えるでしょう。

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