ブドウを持った聖母 (クラナッハ)

ルーカス・クラナッハ（父）の『ブドウを持った聖母』

ルーカス・クラナッハ（父）が1509年から1510年頃に制作した油彩画『ブドウを持った聖母』は、ルネサンス期のドイツ絵画を代表する作品です。この作品は、聖母マリアが幼子イエスを抱き、ブドウの房を持つという独特の図像で描かれており、宗教的な意味合いと美しい風景描写が組み合わさっています。現在はマドリードのティッセン＝ボルネミッサ美術館に所蔵されています。

作品の特徴

本作は、「ブドウを持った聖母」という図像の典型であり、クラナッハはこの主題を生涯にわたり数多く手がけました。キリスト教の教義では、ブドウはイエス・キリストの生命を、ブドウ酒はキリストの血を象徴します。聖母マリアは、神聖なブドウの実である幼子キリストを育む樹として描かれています。

画面の中央では、幼子イエスが聖母マリアが持つブドウの房に手を伸ばし、もう一方の手でブドウを摘んでいます。この仕草は、聖餐の儀式と救世主としてのキリストの役割を示唆しています。聖母の物思いに沈んだ視線は、鑑賞者ではなく未来に起こるキリストの受難を見据えており、その表情は、クラナッハの別の作品『ヴィーナスとキューピッド』に描かれたヴィーナスとよく似ています。

背景描写

この絵画のもう一つの特徴は、緻密な風景描写です。クラナッハは、初期の作品から風景を重要な要素として取り入れており、後のドナウ派の画家たちに影響を与えました。本作では、広大な風景が背景に描かれており、高い視点から見下ろすように構成されています。この風景には、イタリア美術の影響も見られます。特に、クラナッハの聖母像は、風景の重要性においてフランチェスコ・フランチャの作品と共通点が見られます。

風景は、広大な樹木の広がりから始まり、遠くには青みがかった山脈が連なっています。右側には城塞があり、左側には松の木が描かれています。これらの要素は、クラナッハの他の宗教画にも頻繁に見られるモチーフです。風景の細部まで丁寧に描き込まれており、木の枝や茂み、城塞などが細かく表現されています。城塞に続く道には聖ヨセフらしき人物も描かれています。

宗教的象徴と芸術性

『ブドウを持った聖母』は、宗教的な象徴と美しい風景描写が融合した作品です。クラナッハの優れた技術と構図によって、聖母子の神聖さと、自然の美しさが見事に表現されています。この作品は、ルネサンス期のドイツ絵画の傑作として、現在も多くの人々を魅了し続けています。

作品の所蔵

この作品は、1936年にティッセン＝ボルネミッサ・コレクションに収蔵され、1993年にコレクションがスペイン政府に売却された際に、マドリードのティッセン＝ボルネミッサ美術館の所蔵となりました。

参考文献

『クラーナハ展500年後の誘惑』、国立西洋美術館、ウィーン美術史美術館、TBS、朝日新聞社、2016年刊行
岡田温司監修『「聖書」と「神話」の象徴図鑑』、ナツメ社、2011年刊行

外部リンク

* ティッセン＝ボルネミッサ美術館公式サイト、ルーカス・クラナッハ『ブドウを持った聖母』

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