ブドウ栽培

ブドウ栽培：ワイン造りの礎を築く技術と歴史

ブドウ栽培（viticulture）は、ブドウの科学的な研究、栽培、生産を包括する園芸学の一分野です。ワイン造りの原料となるブドウを栽培する営みから発展し、古くから人々の生活と深く結びついてきました。その歴史は古く、新石器時代には既に野生種のブドウを栽培し、ワインを造っていたという証拠があります。

ブドウの起源と適応能力

ヨーロッパブドウ（Vitis vinifera）の原産地は、西ヨーロッパからカスピ海沿岸のペルシャにかけての地域と考えられています。ブドウ樹は環境への適応能力が高く、様々な地域で突然変異を起こしながら、南極大陸を除く全ての大陸に広まりました。

ブドウ栽培農家の役割

ブドウ栽培農家（viticulturist）は、病害虫の防除、施肥、灌水、剪定、収穫など、ブドウ園の管理全般を担います。ブドウの品質はワインの出来を大きく左右するため、ワイン生産者とブドウ栽培農家は密接な連携を取りながら作業を進めます。しかし、ブドウ農家はワイン用だけでなく、生食用など他の用途への出荷も選択可能です。

歴史を彩るブドウ栽培

ブドウ栽培の歴史は、ワインの歴史と深く関わっています。ジョージアで発見された最古のVitis vinifera栽培の証拠は、紀元前3000年頃のものと推定されており、近東でも同時期にブドウ栽培が始まった痕跡が見つかっています。初期の栽培では、自家受粉能力を持つ両性花のブドウが好まれました。

紀元前5世紀末には、ギリシアの歴史家トゥキディデスがブドウ栽培について記述を残しています。この時代、ブドウ栽培は小アジアからギリシア、エーゲ海地域に限定されていましたが、地産地消の作物から重要な交易品へと変化していきました。

ローマ時代のブドウ栽培

紀元前1200年から900年にかけて、フェニキア人がカルタゴでブドウ栽培を発展させました。カルタゴの作家マゴは、ブドウ栽培に関する28冊の書物を著し、ローマ軍によるカルタゴ滅亡後もその記録は残されました。この書物は、カト・ケンソリウスの『農業論』やコルメラの『De Re Rustica』といったローマ時代の農業書に影響を与えました。コルメラはブドウ樹の棚仕立てを提案し、日光の効率的な利用と収穫時の作業の安全性を高めました。ローマ帝国の拡大とともに、ブドウ栽培は西ヨーロッパ各地に広まり、現在ワイン生産地として有名なリオハ、モーゼル、ボルドー、ブルゴーニュ、ローヌなどでもブドウ栽培が始まりました。ローマのブドウ栽培農家は、冷たい空気が谷底に溜まる斜面を理想的な栽培場所としていました。

中世ヨーロッパのブドウ栽培

中世ヨーロッパでは、カトリックの修道士、特にシトー派の修道院がブドウ栽培の中心的存在でした。フランスでは分益農法が行われ、労働者が地主と合意の上でブドウ栽培を行っていました。この時代には、特定地域で安定した収穫が得られる品種の研究が進み、ブドウの品質向上を目指した剪定技術も発展しました。シトー派修道院による品質の高いワイン生産は、裕福な地主と労働者との間の利害関係を生み出すことにもなりました。リースリングの品質向上にも、この時代の修道士たちの努力が貢献しています。ブルゴーニュ地方では、シトー派の修道士が土地をcruという概念で区分けし、ブドウ園ごとの品質管理を進めました。

ブドウ樹の生育条件

世界の大多数のワイン生産地域は、北緯または南緯30度から50度の温帯に位置し、年間平均気温は10～20℃です。広大な水域や山脈の存在が、気候やブドウの生育にプラスの効果をもたらします。水域は、夜間の急激な気温低下を防ぎ、ブドウを保護する役割を果たします。ワイン造りに適したブドウの生産には、年間約1300～1500時間の日照時間と690ミリメートルの降雨量が必要です。収穫期の降雨はカビの発生や裂果のリスクを高めるため、降雨の大部分が冬春に集中することが理想的です。長く暑い夏は、ブドウの完全な成熟と酸と糖分のバランスの良い果実の収穫に繋がります。地形も重要で、丘陵や斜面地は平坦地よりも好ましく、斜面では日光の当たり具合が良くなり、水はけも良くなります。北半球の寒冷地では南向きの斜面、温暖地では北向きの斜面が適しています（南半球では逆）。

ブドウ栽培の障害

ブドウ栽培には様々な障害があり、ワインの品質低下やブドウ樹の枯死につながることもあります。開花期には強風や雹、低温による無核果や果粒の大きさの変化、高温による脱粒などが発生します。

主な障害

べと病
うどんこ病
霜害
ウドンコカビ病
フィロキセラ
ウイルス病

グリーンハーベスト

グリーンハーベストは、収量を減らす目的で未熟な果房を収穫する技術です。高級ワイン生産において、未熟なブドウを摘除することで残ったブドウの成熟度を高め、風味豊かなワインを造るために用いられます。肥沃な土地や灌漑設備のある地域ではブドウの過剰生産を防ぐ手段としても有効です。多くのアペラシオンでは、収量制限を超えたブドウは工業用アルコールとして低価格で販売されるため、グリーンハーベストは経済的なメリットもあります。近年、カリフォルニア州などでも、ブドウの品質向上を目的としたグリーンハーベストが増加しています。

フィールドブレンド

フィールドブレンドは、同じブドウ園で栽培された複数のブドウ品種をブレンドして造られたワインです。かつては品種の厳密な識別が難しかった時代には一般的でしたが、近年では個々の品種を別に醸造することが多くなっています。しかし、カリフォルニア州などでは、古くから植えられたブドウ園から収穫されたフィールドブレンドワインが珍重されています。ドイツのゲミシュター・サッツも、様々な品種を一緒に醸造する点でフィールドブレンドに相当します。

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