リースリング

リースリング：白ワインの女王

リースリングは、ライン川流域原産の白ワイン用ブドウ品種であり、その繊細な香りと酸味が特徴です。花や香水に例えられる芳香を持ち、辛口から甘口、スパークリングまで、多様なスタイルで醸造されます。単一品種で醸造されることが多く、オーク樽熟成は稀です。

2004年には全世界で48,700ヘクタールが栽培され、ブドウ品種の中で20番目の栽培面積でしたが、高級白ワインにおいてはシャルドネ、ソーヴィニヨン・ブランと並び、トップ3に入る重要な品種とみなされています。また、リースリングはテロワールの影響を強く受ける品種としても知られています。

産地ごとの特徴

冷涼な地域では、リンゴや柑橘系の風味が強く、高い酸味が特徴です。バランスを取るために、残糖を残す場合もあります。温暖な地域では、柑橘類や桃のような香りが生まれます。特にオーストラリアではライムのような香りが特徴的で、熟成とともに蜂蜜やスモーキーな香りが加わります。また、ドイツ産の熟成したリースリングには「石油香」と呼ばれる独特の香りが出ることがあります。

2015年において、リースリングはドイツとフランス・アルザス地方で最も栽培面積の多い品種であり、それぞれ全体の23.0％、21.9%を占めています。ドイツでは、モーゼル、ラインガウ、ナーエ、ファルツといった地域で特に広く栽培されています。オーストリア、スロベニア、チェコ、スロバキア、ルクセンブルク、イタリア北部、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、南アフリカ、中国、ウクライナ、そしてアメリカのワシントン州、カリフォルニア州、ミシガン州、ニューヨーク州などでも栽培されています。

歴史

リースリングは歴史の古い品種で、15世紀から文献に記録されています。最古の資料は1402年のドイツ・ヴォルムスの記録に「Rüssling」と表記されています。1435年の記録には「ブドウ畑のリースリングの樹を剪定するのに22シリング掛かった」という記述があります。現代と同じ「Riesling」という綴りが最初に見られるのは1552年のことです。

アルザス地方の1348年の地図には「zu dem Russelinge」という表記がありますが、リースリングを指しているかは不明です。1477年にはアルザスで「Rissling」という綴りが使われています。オーストリア・ヴァッハウ地方では「Ritzling」という小川とブドウ畑があり、リースリングの名前の由来になったという説がありますが、確証はありません。

起源

かつては野生品種に由来するとされていましたが、DNA鑑定の結果、リースリングの片方の親は「グーエ・ブラン（ヴァイサー・ホイニッシュ）」であることが判明しました。もう片方の親は野生品種とトラミナーの交配種です。ホイニッシュとトラミナーはドイツで古くから記録されている品種なので、リースリングはライン川流域で生まれた可能性が高いと考えられています。現在の白ワイン用リースリングは、果皮が赤いリースリングから生まれたという説がありますが、証明されていません。

熟成

若いリースリングは、フルーティーで青リンゴ、グレープフルーツ、桃、グーズベリー、蜂蜜、薔薇、青草などの香りが豊かで、キリッとした酸味が特徴です。リースリングは熟成にも適しており、数百年熟成させたドイツ産リースリングを高く評価する専門家もいます。特にドイツのトロッケンベーレンアウスレーゼのような甘口リースリングは、長期熟成に向いています。高品質なリースリングであれば、辛口や半辛口でも100年を超える熟成に耐えることができます。

一般的には、リースリングの熟成期間は辛口で5～15年、半甘口で10～20年、甘口では10～30年以上が目安です。

熟成したリースリングにおける「石油香」

リリース直後のリースリングには、ケロシンや潤滑油、ゴムを連想させる「石油香」が出ることがあります。これは熟成による複雑な香りの一部で、好む人もいますが、不快に感じる人もいます。若いリースリングのフルーティーな香りを好む傾向が強いドイツでは、この石油香を欠点とみなす生産者もいます。

石油香は、1,1,6-トリメチル-1,2-ジヒドロナフタレン（TDN）という化合物に由来すると考えられています。これは熟成中にカロテノイドが加水分解されることで生成されます。ブドウのカロテノイド生成条件から、収量を減らしてブドウをよく熟させたり、日照時間が長いこと、水分量が少ないこと、酸が豊富であることが、TDNの生成を促進すると考えられています。これらの条件は高品質なリースリングの産出に寄与するとされています。

貴腐

リースリングで造られる最も高価なワインとして、遅摘みのデザートワインが挙げられます。これは、ブドウを収穫せずに樹に残し、貴腐菌や凍結によって水分が蒸発したブドウを使用します。濃縮された果汁から造られるワインは、高い糖度と酸、豊かな香りと複雑性を持ち、長期熟成に耐えます。

リースリングにおける貴腐の利用は、1775年にシュロス・ヨハニスベルクで発見されました。

生産地域

リースリングは、産地のテロワールをよく反映すると考えられています。特にスレートや砂を含む粘土質の土壌が適しています。

ドイツ

ドイツを代表する品種であり、澄んだ香りとテロワールの表現が特徴です。通常9月末から11月末に収穫しますが、レイトハーベストの場合は翌年1月まで遅らせることもあります。ブレンドされることは少なく、オーク樽による樽香を付けることはまずありません。等級は甘さで区別され、収穫時の糖度が重要な判断基準となります。青い香りのリンゴ酸と柑橘系の香りの酒石酸のバランスも重要です。温度管理技術がない時代には、発酵が途中で止まり、糖分が残ることがありました。モーゼルでは緑色のホックボトル、ライン川流域では茶色のボトルが使われます。リースリングはゼクト（ドイツのスパークリング[[ワイン]]）にも使われます。甘口から辛口まで幅広いスタイルのワインが造られています。

フランス

アルザス地方では、1477年からリースリングが栽培されています。ドイツとは異なり、アルザスでは石灰質の土壌が多く、フランス的な醸造法を採用するため、アルコール度数が高めで、長期間熟成させて丸みを帯びたワインにします。補糖が認められています。アルザス産リースリングは辛口で、綺麗な酸を持ち、熟成に向いています。レイトハーベストや貴腐化したブドウを使ったワインも造られます。ミュスカ、ゲヴュルツトラミネール、ピノ・グリと並んで、アルザス・グラン・クリュでの栽培が認められている高貴品種の一つです。

オーストラリア・ニュージーランド

1838年にオーストラリアに持ち込まれました。1990年代初頭までは最も多く栽培されていましたが、現在はシャルドネに人気を譲っています。グレート・サザン地域やクレア・ヴァレー、イーデン・ヴァレーなどで栽培されています。温暖な気候のため、果皮が厚くなりやすい傾向があります。石灰石やシェールの上に赤土が被さった水はけの良い土壌で育ったリースリングは、引き締まった味わいになり、熟すとトーストや蜂の巣、ライムなどの香りが現れます。ステンレスタンクで低温で醸造され、早い段階で瓶詰めされることが多いです。オーストラリア産は、若いうちはオイリーな味わいと柑橘の香りが顕著で、熟成が進むと爽やかさと酸味のバランスが取れます。ニュージーランドでは1970年代から栽培されており、マールボロやネルソン地区で盛んです。オーストラリア産に比べて、より軽く繊細なワインが産出され、甘口から辛口まで様々なタイプがあります。

オーストリア

グリューナー・ヴェルトリーナーに次いで多く栽培されている品種です。厚みのあるボディと複雑な香りが特徴で、長い余韻と白胡椒のような香りがあります。ワコー地区では、冷涼な気候と水はけの良い土壌のため、多く栽培されています。アルコール度数は比較的高い傾向があり、辛口が多いです。

アメリカ

19世紀末にドイツ移民によって持ち込まれました。ニューヨーク州フィンガーレイクス周辺は、アメリカで最も早くからリースリングが栽培された地域です。カリフォルニア州では、レイトハーベストのデザートワインに使われています。ワシントン州では栽培が増加傾向にあります。ニューヨーク州産は、発泡性で軽くてまろやかなものが多いです。カリフォルニア州産は、柔らかくふくよかな味わいです。ワシントン州産は、すっきりとした軽いワインで、桃やミネラルの複雑な香りが特徴です。ミシガン州ではアイスワイン用として利用されることが多いです。

カナダ

オンタリオ州では、主にアイスワインに使われています。ナイアガラ地区は、アイスワインの主要な産地です。レイトハーベストの甘口やスパークリング[[ワイン]]も造られます。ブリティッシュコロンビア州では、アイスワインやテーブルワインの他、スパークリング[[ワイン]]にも使われます。ノバスコシア州では、海洋性気候と氷河性土壌により、面白いワインが造られています。

その他の地域

ハンガリー、イタリア、クロアチア、南アフリカ、チリなどでも栽培されています。

醸造

リースリングの果実は繊細なため、収穫後に果皮を傷つけないように扱う必要があります。果皮が傷つくとタンニンが浸出し、ワインのバランスを損なう可能性があります。ブドウや果汁は、醸造過程を通して冷やされることが多いです。発酵はステンレスタンクで10℃から18℃の温度を制御して行います。マロラクティック発酵は行わないことが多く、酸味を残します。低温安定化処理で酒石酸の結晶化を防ぐこともあります。理想的な条件は、長い期間をかけてゆっくりと熟すことができる気候と、収量を抑えることです。

食品との相性

リースリングは、甘さと酸味のバランスがとれているので、魚料理や豚肉料理と組み合わせることができます。スパイシーな料理とも相性が良いです。花やトロピカルフルーツ、ミネラルなどの香りが特徴で、熟成すると石油香が出ることがあります。新樽が用いられることはほぼなく、軽いワインに仕上がることが多いため、様々な料理に合わせやすいです。

クローン

リースリングには、多くのクローンが存在し、それぞれ特徴が異なります。ドイツでは約60のクローンが認められています。

赤いリースリング

赤いリースリングは、果皮が赤みがかっているリースリングの変種です。白いリースリングの突然変異とみなされることが多いですが、一部の研究者は赤いリースリングが祖先だと考えています。ドイツやオーストリアで少量生産されています。

交配

19世紀末、リースリングの特徴を残しつつ、栽培しやすい品種を作ろうと試みられました。その中で、最も特筆すべきはミュラー・トゥルガウです。

名称

「リースリング」という名前を含むブドウ品種は多く存在しますが、実際にはリースリングとは異なるものも多くあります。

ヴェルシュリースリング
シュヴァルツリースリング
ケープ・リースリング
グレー・リースリング
* ホワイト・リースリング（本物のリースリング）

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