ブラ!ブラ!ブラ! 胸いっぱいの愛を

『ブラ!ブラ!ブラ! 胸いっぱいの愛を』（原題：The Bra）は、2018年に公開されたアゼルバイジャンとドイツの合作によるユニークなコメディ映画です。この作品最大の特徴は、全編を通してセリフが一切ない無声映画であるという点でしょう。

舞台はアゼルバイジャンの広大な山間地域と、そこに張り巡らされた鉄道沿線の住宅街です。この美しい風景の中を、物語の主人公たちが行き交います。

主人公は、定年退職を間近に控えたベテランの鉄道運転士、ヌルランです。彼は、ミキ・マノイロヴィッチという名優が演じています。ミキ・マノイロヴィッチは、他の多くの作品でも高い評価を得ている実力派俳優です。ヌルランは日々の業務を通して、車窓から見える人々の生活を静かに見つめていました。しかし、彼の日常は、ある日突然、一枚のブラジャーが電車内に舞い込んできたことから一変します。

このブラジャーの持ち主を探すという、一見すると突拍子もない出来事が、物語の始まりです。真面目な性格のヌルランは、このブラジャーの持ち主を探し出すという、彼の定年退職前の最後の任務に挑むことを決意します。

ヌルランは、ブラジャーの持ち主を探して街中を奔走します。ダンサーや人妻、そして後家など、様々な女性と出会います。しかし、彼の探求は長く、険しい道のりとなります。ブラジャーの持ち主はなかなか見つからず、ヌルランの探求は、時にコミカルで、時にシニカルな展開を見せます。果てには、ブラジャーの訪問販売員を装うなど、彼の行動はますます迷走していきます。

この作品を支えるのは、ミキ・マノイロヴィッチをはじめとする実力派俳優陣の素晴らしい演技です。ヌルランの鉄道運転士見習い役には、ドニ・ラヴァンが抜擢されています。ドニ・ラヴァンも、数々の映画に出演経験を持つ実力派です。そして、鉄道交換士役には、チュルパン・ハマートヴァが起用されています。この3人の名優たちが織りなす、コミカルでシニカルな演技が、物語に深みとユーモアを与えています。

監督を務めたのは、ファイト・ヘルマーです。彼は西ドイツに移住し、舞台演出を学んだ経歴を持ちます。1995年にはヴィム・ヴェンダース監督作品『ベルリンのリュミエール』の製作に携わり、1999年には長編映画『ツバル』を発表するなど、映画界で長年に渡って活躍してきた人物です。本作品は、ヘルマー監督の長編5作目にあたります。また、ミキ・マノイロヴィッチとは『ゲート・トゥ・ヘヴン』（2003年）、ドニ・ラヴァンとは『ツバル』（1999年）以来のタッグとなります。

『ブラ!ブラ!ブラ! 胸いっぱいの愛を』は、セリフがないという制約を逆手にとり、映像と俳優の演技だけで物語を鮮やかに描き出す、非常に独創的な作品です。アゼルバイジャンの美しい風景と、個性豊かなキャラクターたちの織りなす、ユーモラスで心温まる物語は、観る者に忘れられない感動を与えてくれることでしょう。セリフがないことで、かえって観客の想像力を掻き立てる、そんな魅力的な作品と言えるでしょう。

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