ブライアン・サイクス

ブライアン・サイクス（Bryan Sykes, 1947年9月9日 - ）は、イギリスを代表する生物学者であり、分子人類学、人類遺伝学の分野で多大な貢献をしてきた科学者です。また、サイエンスライターとしても活躍しています。オックスフォード大学分子医学研究所で遺伝学の教授を務めています。

古代DNA研究のパイオニア

サイクス教授は、古代人骨からDNAを抽出して型鑑定を行うという、当時としては画期的な手法を確立しました。1989年には、科学雑誌『ネイチャー』で、この技術を用いて古代人骨のDNA分析が可能であることを発表し、世界中から注目を集めました。この研究では、アイスマンやチェダーマンといった古代人のミトコンドリアDNAを解析し、人類の歴史を遺伝子レベルで解き明かす先駆けとなりました。

ロマノフ王朝のDNA鑑定

帝政ロシアのロマノフ王朝の人物のDNA鑑定にも携わり、歴史的な謎の解明に貢献しました。この研究は、歴史的な事件における身元確認の重要性を示す一例として、広く知られています。

偶然から始まった姓とY染色体の研究

講演依頼を受けた製薬会社の会長の姓が偶然にも「サイクス」であったことがきっかけで、自身のY染色体のハプログループを解析したところ、会長のそれと一致したという出来事がありました。この偶然が、イギリス人の姓とY染色体ハプログループの関係を研究する動機となり、遺伝子と姓の興味深い繋がりを明らかにしました。

雪男の正体に迫る

また、サイクス教授は、ヒマラヤ山脈で採取された雪男のものと思われる体毛の解析も行いました。その結果、ノルウェーのスバールバルで見つかった、12万年～4万年前の北極熊の顎の骨から採取されたDNAと一致することが判明しました。この発見から、雪男とされていた生物は、古代の北極熊とヒグマの雑種の子孫であるという結論に至りました。この研究は、伝説の生物の正体を科学的に解明する試みとして注目されました。

著書

サイクス教授は、研究活動と並行して、一般読者向けの著作も多数発表しています。

『イヴの七人の娘たち』（原題: The Seven Daughters of Eve）は、ミトコンドリアDNAの解析に基づいて、ヨーロッパ人の祖先である7人の女性を特定した研究を紹介したものです。
『アダムの呪い』（原題: Adam's Curse）は、Y染色体に着目し、男性の遺伝的歴史を辿ったものです。
『私たちの遺伝的履歴』（原題：The Genetic History of Us）では、人類の遺伝的歴史全体を概観しています。
『ヒトへの感染』 (原題：Outbreak: The Disease Detectives)では、感染症の歴史と人類との関わりを解説しています。
* 『Saxons, Vikings, and Celts: The Genetic Roots of Britain and Ireland』は、イギリスとアイルランドの遺伝的ルーツについて、サクソン人、バイキング、ケルト人の視点から深く掘り下げています。

これらの著作は、難解な科学的なテーマを一般の読者にも分かりやすく解説しており、科学への関心を高める上で重要な役割を果たしています。

サイクス教授の研究は、人類の起源、移動、そして遺伝子と文化の関係を解き明かす上で、大きな影響を与えています。彼の業績は、分子人類学の発展に大きく貢献しており、その探求心と科学的アプローチは、次世代の研究者たちに大きな刺激を与え続けています。

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