ブライスガウSバーン

ブライスガウSバーン（ドイツ語: Breisgau-S-Bahn）は、ドイツ南西部、バーデン＝ヴュルテンベルク州のフライブルク都市圏を中心に運行される都市近郊鉄道システムです。このシステムは、フライブルク地域交通連合（Zweckverband Regio-Nahverkerhr Freiburg, ZRF）が推進した大規模な公共交通改善プロジェクト、「Sバーンプロジェクト2020」によって実現されました。2019年12月には一部区間が先行開業し、その後段階的に路線網が拡大・整備され、地域の交通利便性向上に貢献しています。

歴史的背景と発展

ブライスガウSバーンの基盤は、1995年にフライブルク交通株式会社（VAG）と南西ドイツ交通株式会社（SWEG）が出資して設立したブライスガウSバーン有限会社（Breisgau-S-Bahn GmbH, BSB）に遡ります。BSBは翌年に鉄道事業者としての許可を取得しました。初期の取り組みとして、「ブライスガウSバーン2005」プロジェクトが実施され、主要路線であるブライスアッハ線、エルツ谷線、東カイザーシュトゥール線において、列車本数の増加など運行体制の改善・拡充が進められました。このプロジェクトにより、線路や駅施設の改良が行われ、多くの区間で列車運行間隔が30分に短縮されるなど、サービスレベルが向上しました。

1997年6月には、BSBがドイツ鉄道からブライスアッハ線の運営権を引き継ぎ、自社での運行を開始しました。当初、この路線ではBSBが新規に導入したレギオシャトル気動車が投入されました。その後、2000年5月には南西ドイツ交通がカイザーシュトゥール線の一部区間で30分間隔運転を開始し、2002年12月にはBSBがエルツ谷線区間の運営を引き受けるなど、徐々に運営範囲を広げていきました。この時期の代表的な運行区間は、ブライスアッハ - フライブルク間や、エルツアッハ - フライブルク間でした。

Sバーンプロジェクト2020と系統の再編

Sバーンシステムへの本格的な移行は、「Sバーンプロジェクト2020」によって進められました。2012年にはエルツ谷線とホェレン谷線の一部区間の改修に関する財政協定が結ばれましたが、改修費用の高騰が懸念されたため、州政府がブライスアッハ線とエルツ谷線の整備を直接担うことになりました。車両購入費用への支援も州政府の管理下に移されました。

この間、運営体制にも変化がありました。2013年1月にはフライブルク交通会社がSバーン運営事業から撤退し、南西ドイツ交通がBSBを完全子会社化しました。さらに2017年12月にはBSB自体が親会社である南西ドイツ交通に吸収合併され、事業はSWEGに一本化されました。2019年12月からは、SWEGがエルツ谷線、カイザーシュトゥール線、ミュンスター谷線を含むY字型ネットワークのSバーン運営を担っています。一方、ブライスアッハ線は同時期にドイツ鉄道レギオに移管されました。

このプロジェクトの中心は、既存路線の改良、電化（一部）、そして系統の統合・再編でした。これにより、「ブライスガウ東西路線（S1系統）」、「フライブルクY字路線（S2, S3, S5系統）」、そして「ライン谷路線」を含む広範なエリアで、乗り換えなしで移動できる直通系統が大幅に増加しました。2020年12月13日には、新たなSバーン路線網としての本格的な運行体制が確立されました。

系統の調整と現在の路線

Sバーンプロジェクト2020の開始当初、特に東西路線（S1系統）では、ゴッテンハイム駅やティティゼー駅での列車の増解結（連結・分離）が計画されていました。しかし、列車間の通信システムに技術的な問題があり、これが原因で多数の運休が発生しました。このため、より安定した運行を確保するために、2020年2月17日から東西路線の系統が見直され、以下のような運行体系に調整されました。

- S1: ブライザッハ - ゴッテンハイム - ラントヴァッサー（旧西駅） - 見本市＝大学 - フライブルク（ブライスガウ） - リッテンヴァイラー - ヒンメルライヒ - キルヒツァルテン - ティティゼー - ゼーブルック
- S10: フライブルク（ブライスガウ） - リッテンヴァイラー - ヒンメルライヒ - キルヒツァルテン - ティティゼー - ノイシュタット（シュヴァルツヴァルト） - ロェフィンゲン - ヒューフィンゲン中駅 - ドナウエシンゲン - フィリンゲン
- S11:（ブライザッハ - ゴッテンハイム - フライブルク（ブライスガウ）- リッテンヴァイラー - ヒンメルライヒ - キルヒツァルテン -）ティティゼー - ノイシュタット（シュヴァルツヴァルト）（※一部列車のみブライザッハ方面から直通）
- S12: エンディンゲン - バーリンゲン - アイヒシュテッテン - ゴッテンハイム（- ラントヴァッサー（旧西駅）- 見本市＝大学 - フライブルク（ブライスガウ））（※一部列車のみフライブルク方面へ直通）
- S13: フライブルク（ブライスガウ） - リッテンヴァイラー - ヒンメルライヒ - キルヒツァルテン（※通勤時間帯のみ運行）

また、Y字路線として再編されたS2（エルツ谷線）、S3（東カイザーシュトゥール線、ミュンスター谷線など）、S5（ライン谷線など）といった系統も運行されています。これらの系統変更により、ネットワーク全体の安定性と利便性の向上が図られました。

使用車両

ブライスガウSバーンでは、複数の種類の車両が使用されています。1997年から導入が始まったレギオシャトル気動車は、初期のBSBの主力車両でした。2005年以降には21両体制となり、アドトランツ製（9両）とシュタドラー製（2002年以降導入）の車両が運用されています。電化区間の拡大に伴い、電車も導入されていますが、新型車両であるタレント3の供給に遅れが生じたため、一部のS2、S3、S5系統では一時的にレギオシャトルが引き続き使用されました。現在のS3系統の一部区間では、南西ドイツ交通が所有するタレント2電車2両が2013年から運用されています。ドイツ鉄道が運行する区間では、1440形、463形、1462形といった形式の電車が使用されており、各社の車両がSバーンネットワークを構成しています。

ブライスガウSバーンは、これらの歴史的な経緯と継続的な改良を経て、フライブルク都市圏とその周辺地域を結ぶ、不可欠な公共交通機関として機能しています。

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