ブラウンシュヴァイク工科大学

ドイツ北部のニーダーザクセン州、州内第2の都市ブラウンシュヴァイクに位置するブラウンシュヴァイク工科大学（Technische Universität Braunschweig）は、国内有数の理工系大学です。ドイツ国内で最も古い数理科学教育機関の流れを汲み、ドイツの主要工科大学によって構成される連合体「TU9」の一員として、研究・教育において重要な役割を担っています。

数学や物理学、天文学といった分野で多大な功績を残した偉大な数学者、カール・フリードリッヒ・ガウスの母校としても知られ、現在では彼の名を冠した学部が設けられています。一般的に「工科大学」と称されますが、実際には工学分野に加え、人文科学系の学部も擁する総合大学（ウニヴェルジテート）としての側面も持っています。ドイツ語の「Technische Universität（TU）」は本来「工業総合大学」に近い意味合いを持ちますが、日本の文献では「工科大学」と訳されることが一般的であるため、本稿でもその通称を用います。

歴史

ブラウンシュヴァイク工科大学の起源は、18世紀半ばに遡ります。17世紀から18世紀にかけてのドイツの各領邦国家では、神聖ローマ帝国の衰退と宗教改革による分裂、さらに三十年戦争などの影響を受け、自国の宗派や政策に沿った思想教育を行う機関が求められるようになりました。また、他領への留学にかかる費用負担も、新たな学校設立を後押しする要因となりました。

当時の高等教育は、伝統的な古典語や神学、弁論術が中心でしたが、ルネサンス以降の新しい学問や科学技術の急速な発展には対応しきれていませんでした。これに対し、成長した市民階級の中から、実社会で役立つ数学、地理、技術、外国語などの習得を目指す者が増え、伝統的な学問のみを修めた上流階級の知識よりも実学が重視される風潮が生まれつつありました。

このような時代背景の中、ブラウンシュヴァイク＝ヴォルフェンビュッテル侯国のカール1世（1735年即位）は、重商主義と啓蒙主義に基づいた政策を推進しました。領内の産業振興のためには、上流階級の人々が新しい時代の知識や技術を学ぶ必要性を感じ、自身の膝元であるブラウンシュヴァイクに新たな教育機関の設立を計画しました。これが、1745年に創立された「カロリヌム・コレギウム（Collegium Carolinum）」です。このコレギウムは、専門的な研究者育成を目指すウニヴェルジタートと、中等教育を行うギムナジウムの中間に位置づけられ、卒業後に実社会や教育現場で活躍できる人材の育成を目的としていました。

カール1世は、啓蒙思想家でもあった宮廷顧問のイェルーザレムに教授陣の人選を依頼しました。国内外から招かれた若い学者や文人によって、創立当初は人文科学、美術、数学、科学といった幅広い分野の講義が行われました。彼らによって、カロリヌム・コレギウムは18世紀後半のドイツにおける啓蒙主義の中心地の一つとなりました。しかし、18世紀から19世紀にかけてヨーロッパで自然科学と工学が飛躍的に進歩したことを反映し、学校の教育内容も徐々に理工系分野へと重点を移していくことになります。

19世紀に入り、ナポレオン戦争の影響でブラウンシュヴァイクはフランスに占領されます。この時期、コレギウムは一時的に軍学校として再編されましたが、ブラウンシュヴァイク公国として独立回復後、ヴィルヘルム公のもとで再び理工系教育が重視されるようになります。1835年には人文学、理工学、経済学の3学部に再編され、さらに1862年には人文・経済学部が廃止され、「王立技術学校（Herzogliche Polytechnische Schule）」として理工系専門の学校へと改称されました。1877年には新校舎が完成し、「王立カール＝ウィルヘルミナ・工科大学（Herzogliche Technische Hochschule Carolo-Wilhelmina）」へと改称、当時の学生数は211名でした。

第二次世界大戦では、学舎の7割が破壊される甚大な被害を受けましたが、州政府の支援により再建され、教育活動を再開しました。1968年には現在の正式名称である「ブラウンシュヴァイク・カール＝ウィルヘルミナ・工科大学（Technische Universität Carolo-Wilhelmina zu Braunschweig）」となり、通称としてブラウンシュヴァイク工科大学の名で広く知られています。2003年には、ドイツの主要工科大学9校で結成された「TU9」に加盟しました。

学部構成

現在、以下の学部が設置されています。

カール・フリードリヒ・ガウス学部（数学、情報、経済、社会科学）
生命科学学部（生物・バイオテクノロジー、化学・食品化学、薬学、心理学）
建築・土木工学・環境科学学部（建築、土木工学・環境科学）
機械工学部（機械工学、交通工学）
電気工学部（電気工学・情報技術、物理学）
人文教育学部（人文教育）

主な出身者

著名な卒業生として、量子ホール効果の発見でノーベル物理学賞を受賞したクラウス・フォン・クリッツィング、超音速空気力学のパイオニアである航空工学者のアドルフ・ブーゼマンなどがいます。また、エアバス・ディフェンス・アンド・スペースのCEOを務めるダーク・ホークや、建築家のコンスタンティン・ウーデも本学の出身です。

日本における協定校

日本の大学との国際交流も行っており、東京農工大学や静岡大学と学術交流協定を結んでいます。

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