ブラックムーア (キャンペーン設定)

ブラックムーア：ダンジョンズ&ドラゴンズの原点

ブラックムーアは、ファンタジー・ロールプレイングゲーム、特に『ダンジョンズ&ドラゴンズ』（D&D）の源流とも言える重要なキャンペーン設定です。1970年代初頭、D&Dの共同制作者であるデイヴ・アーネソンが、自身のミニチュアウォーゲームの背景として創造しました。この世界は、後のD&Dの原型となる実験的な舞台として活用されました。

ブラックムーア誕生秘話

アーネソンのウォーゲーム仲間との交流から生まれたブラックムーアは、『指輪物語』や『ダーク・シャドウズ』といった作品から得たアイデアを取り入れ、独自の発展を遂げました。アーネソンは、中世戦をテーマにしたミニチュアゲーム『チェインメイル』のファンタジーサプリメントのルールを、ブラックムーアにおけるダンジョン探索に応用しました。ブラックムーアの特徴は、プレイヤー間の協力プレイを重視し、果てしなく進歩を続けるキャンペーンであったことです。

ブラックムーアの起源は、中世のミニチュア戦闘を専門とする国際ウォーゲーム連盟(IFW)の分会であるキャッスル&クルセイド・ソサエティに遡ります。ゲイリー・ガイギャックスが運営していたこの団体に、アーネソンは1970年4月に参加。ソサエティのメンバー達は、区画分けされた土地を授与したり、紛争によって勝ち取ったりする、架空の「大王国」を作り上げることになりました。アーネソンはその遥か北方地域を担当し、中世を模したゲームの舞台が、後にブラックムーアへと発展していきました。

アーネソンの同人誌『コーナー・オブ・ザ・テーブル』には、キャンペーンの最初のゲームが、デイブ・ウィズリーの「ブラウンシュタイン」シリーズを参考にしたと記述されています。当初、「北の辺境」は多人数プレイの継続型ウォーゲームとして準備され、ブラックムーア男爵領がゲームの中心となりました。

ゲームの進行と共に、アーネソンのナポレオン系のゲームプレイヤー達も加わり、役割は多様化しました。プレイヤー達は、アーネソンが考案した革新的なダンジョン探索方式に惹かれ、1972年にはゲームの重要な要素となっていきました。ブラックムーアの需要が高まるにつれ、アーネソンは他のプレイヤー達に裁定役を任せるようになりました。

1972年の夏、アーネソンは『ドゥームズデイブック』にブラックムーアに関する記事を執筆し、その斬新なゲームシステムは他の会員達の注目を集めました。同年秋にはガイギャックスにゲームの実演を行い、これがD&D開発のきっかけとなりました。D&Dのルール開発が進む傍ら、ブラックムーアのキャンペーンも継続され、ガイギャックスのグレイホークと呼ばれるキャンペーンとの調整も行われました。D&D出版後もブラックムーアは継続されましたが、主要メンバーがレイク・ジェニーバでの仕事のためにミネアポリスを離れたため、プレイ頻度は減少しました。

ブラックムーアの出版

1975年、タクティカル・スタディーズ・ルールズ(TSR)からD&Dの2番目のサプリメントとして『ブラックムーア』が出版されました。この冊子には、ロールプレイングゲーム初のアドベンチャーシナリオ「テンプル・オブ・ザ・フロッグ」が収録されました。しかし、『ブラックムーア』には、「テンプル・オブ・ザ・フロッグ」を除き、ブラックムーアの背景設定に関する情報はほとんど含まれていませんでした。

1977年には、ジャッジズ・ギルドから『ザ・ファースト・ファンタジー・キャンペーン』が出版され、ブラックムーアのキャンペーン設定に関する情報が追加されました。領地、要塞、指導者の歴史、ダンジョンの詳細などが掲載され、プレイヤーはブラックムーアの世界をより深く体験できるようになりました。

DAシリーズ：ミスタラへの組み込み

アーネソンがTSRを去った後も、ブラックムーアはD&Dの伝承の一部として残り、後のサプリメントで言及されました。その後、AD&Dゲーム向けにグレイホークの世界が再出版された際、地図北西部の黒氷の北極地域がブラックムーアと呼ばれるようになりました。

しかし、アーネソンのブラックムーアは、ベーシックD&Dという異なるルールシステムと背景設定に統合されました。ミスタラと呼ばれる世界では、ブラックムーアは遠い過去に存在した高度な科学文明として設定され、惑星の地軸移動をもたらした世界的な大災害によって滅亡したとされています。

1980年代半ばには、DAシリーズのアドベンチャーモジュールが登場し、プレイヤーはミスタラの過去に遡り、ブラックムーアを訪れることができました。DA1では、ブラックムーアの地理や政治、移動手段が解説され、DA2では「テンプル・オブ・ザ・フロッグ」が拡張されました。DA3では、ブラックムーア近傍に墜落した宇宙船が登場し、時代錯誤的な要素が加わりました。DA4はアーネソンのキャンペーン記録に由来しない唯一の作品で、侵略してくる蛮族の大群を扱っています。DA5の出版も予告されましたが、実現には至りませんでした。

DAシリーズ以降、TSRからブラックムーアを直接扱うアドベンチャーは出版されませんでしたが、ミスタラ関連製品では言及が続けられました。

その後の展開

ベーシックD&Dゲームとミスタラ背景設定が打ち切られた後、アーネソンが晩年に関わったツァイトガイスト・ゲームズは、2004年にd20システム版のブラックムーアを制作しました。また、ツァイトガイスト・ゲームズはD&D第4版のブラックムーア・キャンペーン・ガイドも発売しました。

ツァイトガイスト・ゲームズ主催の多人数参加型[ロールプレイングゲーム]キャンペーンも展開されました。

ブラックムーアは、D&Dの原点として、そして多様な展開を見せるファンタジー世界として、今もなお多くのファンを魅了し続けています。

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