ブランデンブルク＝クルムバッハ辺境伯カジミール (クラナッハの絵画)

ブランデンブルク＝クルムバッハ辺境伯カジミールの肖像

ルーカス・クラナッハ（父）によって描かれた『ブランデンブルク＝クルムバッハ辺境伯カジミール』は、ドイツ・ルネサンス期の肖像画として重要な作品です。この絵画は、ブナ板に油彩で描かれており、その制作年は1522年か1532年かで議論が続いています。長らく、描かれている人物はザクセン選帝侯賢明公だと誤解されていましたが、現在ではブランデンブルク＝クルムバッハ辺境伯カジミール（1481-1527年）であることが確認されています。

作品の来歴と所蔵

この作品は、17世紀にレオポルト・ヴィルヘルム・フォン・エスターライヒのコレクションに加わり、その後、現在ではウィーンの美術史美術館に所蔵されています。この美術館は、多くの歴史的な美術品を収蔵しており、この作品もその重要な一部となっています。

カジミールの肖像画

クラナッハの工房や追随者によって描かれたカジミールの肖像画は、この作品を含めて3点存在します。他の2点には人物名が明記されており、この作品がカジミールを描いたものであるという証拠になっています。カジミールは、弟のゲオルク（ブランデンブルク＝アンスバッハ辺境伯、1484-1543年）と共に、ドイツのバイエルン州北部に位置する辺境伯領を統治していました。

これらの肖像画は、細部には相違点が見られるものの、顔の向きや大きさが一致しており、全てが同じ原型に基づいて制作されたと考えられます。これは、クラナッハの工房における制作プロセスや、肖像画の需要と複製制作の可能性を示唆しています。

制作年の検証

最近の研究では、この作品に使用された板が1524年以降に伐採された木材であることが判明しました。さらに、インディアナポリス美術館所蔵のクラナッハ作『キリストの磔刑』と同一の木材が使用されており、この作品には1532年の年記があります。このことから、本作の年記の3番目の数字は、これまで考えられていた「2」ではなく「3」であった可能性が高いとされています。

宗教改革とカジミールの立場

カジミールはハプスブルク家に仕え、弟のゲオルクとは異なり宗教改革には参加しませんでした。むしろ、彼は宗教改革に反対する立場を取っていました。そのため、1532年という宗教改革が本格化していた時期に、すでに故人であったカジミールの肖像画が依頼された理由は謎です。この点は、今後の研究で解明されるべき課題と言えるでしょう。

まとめ

『ブランデンブルク＝クルムバッハ辺境伯カジミール』は、ルネサンス期の肖像画として重要なだけでなく、歴史的な人物像や当時の社会情勢を知る上でも貴重な資料です。クラナッハの卓越した描写力と、作品にまつわる謎が、この絵画の魅力を一層引き立てています。

参考文献

『クラーナハ展500年後の誘惑』、国立西洋美術館、ウィーン美術史美術館、TBS、朝日新聞社、2016年刊行　ISBN 978-4-906908-18-9

外部リンク

美術史美術館公式サイト、ルーカス・クラナッハ『ブランデンブルク＝クルムバッハ辺境伯カジミール』 (ドイツ語)

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