ブラン2.02

2.02（タイフーン）

概要

2.02は、かつてソビエト連邦が国家の威信をかけて推進した大規模な宇宙開発プロジェクト、「ブラン計画」において、複数の製造が計画されていたオービター（宇宙往還機）シリーズの中で、4番目に製造が進められていた機体です。公式には製造番号である「2.02」として識別されますが、非公式ながらも一部では「タイフーン」という名称で呼ばれていました。このほか、OK-2.02、ブラン2.02、あるいは単にシャトル2.02と呼ばれることもあります。ブラン計画は、アメリカ合衆国のスペースシャトル計画に対抗する形で進められたものであり、2.02は計画の進展に伴い製造が始まった、比較的新しい機体群に属していました。

計画中止と未完の運命

2.02の製造は、ソビエト連邦（後にロシア連邦）の首都モスクワにあるトゥーシノ機械製造工場（Tushino Machine Building Plant）で行われていました。しかし、計画の進行中、ソビエト連邦の崩壊といった政治的・経済的な激変が起こり、ブラン計画全体の継続が困難となります。そして、1993年にブラン計画は正式に中止されることが決定しました。この時、2.02の組み立て作業はまだ始まったばかりの段階であり、機体全体の完成度は10%から20%程度に留まっていました。これは、機体の骨格の一部が組み上がり始めた程度の、非常に初期的な状態であったことを意味します。計画の突然の中止は、この未完成のオービターが本来の目的である宇宙へ旅立つ機会を永遠に失わせることとなりました。

中止後の経緯と現在の状況

ブラン計画が中止された後、未完成状態にあった2.02は、製造が行われていたトゥーシノ機械製造工場の中に数年間、そのままの状態で放置されることになりました。広大な工場の片隅で、かつての壮大な宇宙計画の夢が打ち砕かれた象徴として、静かに時を過ごしていたのです。しかし、その場所に留まり続けることも長くは許されませんでした。やがて、機体は部分的に解体され、工場の建物の外、つまり屋外へと移されることになります。現在、2.02の機体は、製造工場であった施設の敷地内、あるいはその近郊の屋外に、無防備な状態で横たわっていると伝えられています。かつて、宇宙の厳しい環境に耐えうるよう設計されたはずの先進的な機体は、今や雨風や太陽光といった自然の要素に直接晒され、その姿は見るも無残に荒廃が進んでいます。この屋外での長期間の放置は、機体の構造材や表面材に深刻な劣化を引き起こしている可能性が高いと考えられます。

タイルの剥離と流通

さらに、2.02の悲しい末路を象徴する出来事として、機体を覆っていた多数の耐熱タイルが剥がされていることが報告されています。これらの剥がされたタイルは、インターネットオークションなどを通じて個人間で売買されている事例が確認されています。本来、宇宙往還機の最も重要な保護機能の一つである耐熱システムを構成していたタイルが、機体から引き剥がされ、単なる記念品や収集品として取引されているという事実は、この機体が辿った運命とブラン計画の終焉の現実を強く物語っています。未完成の巨大な宇宙機が、荒廃した状態で放置され、その一部が分解されて流通しているという現状は、ソビエト連邦時代の野心的な宇宙開発の歴史における、忘れ去られた一側面を示していると言えるでしょう。

結び

2.02、非公式名「タイフーン」は、ソビエト連邦の宇宙開発の野心が生み出した未完の遺物です。計画中止という歴史の波に乗り損ねたこの機体は、工場での放置、屋外への移送、そして現在の荒廃した姿とタイルの剥離という厳しい運命をたどっています。その姿は、ブラン計画の終焉と、冷戦後のロシアにおける宇宙開発の困難な道のりを静かに物語っていると言えるでしょう。

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