ブラン計画

ブラン計画とは

ブラン計画（ロシア語: Бура́н）は、かつてソビエト連邦が進めていた、再使用可能な宇宙船、すなわち宇宙往還機の開発プロジェクトです。当時の二大超大国の一角として、国力を誇示しアメリカとの力の均衡を維持するため、ライバルであるアメリカ航空宇宙局（NASA）が進めるスペースシャトル計画に対抗する必要があり、その一環として計画されました。

この壮大なプロジェクトは1970年代に始まり、1980年代に本格的な開発が進められました。

開発の経緯

ソビエト連邦は、アメリカのスペースシャトルに対抗し得る、自国の再使用型宇宙往還機の保有を目指しました。これは、単なる技術開発競争だけでなく、軍事的な優位性や政治的な影響力を確保する上でも重要な課題でした。

ブランを宇宙へ送り出すために特別に開発されたのが、大型ロケット「エネルギア」でした。一般的なロケットがペイロードを機体の上部に搭載するのに対し、エネルギアはその独特な設計により、ブランを機体の側面に抱えるように搭載する構造となっていました。このエネルギア・ブランシステムは、後にブランを搭載しない状態で、補助ロケットを重量物打ち上げ用として使用することも想定されました。この仕様は「ブラン-T」と呼ばれ、軌道投入には別途上段ロケットが必要とされました。実際に、エネルギアの最初の打ち上げでは、大型の軍用衛星をペイロードとして搭載した重量物打ち上げ仕様が採用されています。

打ち上げ実績

ブランを運用するためのキーとなったエネルギアロケットは、1987年5月15日21時30分（協定世界時）に、大型軍用衛星「ポリウス」を搭載して最初の打ち上げを行いました。打ち上げ直後に機体が大きく揺れる場面もありましたが、エネルギア自体は正常に飛行しました。しかし、公式発表では、搭載されたポリウスのエンジンに不具合が発生し、軌道投入に失敗したとされています（一方、ゴルバチョフ大統領による直前の運用中止命令が原因で、意図的に軌道に乗せなかったとする説も存在します）。

ブラン自身の歴史的な初飛行は、1988年11月15日午前3時（協定世界時）に、カザフスタンにあるバイコヌール宇宙基地から無人で行われました。ブランは地球軌道を206分間周回した後、発射地点であるバイコヌール宇宙基地の滑走路へ見事に自動着陸を成功させました。これは、当時のソビエト連邦の自動制御技術の高さを世界に示す快挙となりました。

計画の終焉、そしてその後

ブラン計画では、1992年には有人宇宙飛行を実施する予定でした。しかし、この巨大プロジェクトの遂行には莫大な費用がかかることが判明しました。さらに、初飛行を終えたブランの損傷が予想以上に大きく、その修復にも多大な時間と費用が必要となることが明らかになりました。そして決定的な出来事となったのが、1991年12月25日のソビエト連邦崩壊です。これらの要因が重なり、ブラン計画は遂に消滅することとなりました。

完成した初号機（ブラン）は、カザフスタンのバイコヌール宇宙基地にそのまま保管されていましたが、2002年5月12日に発生した激しい暴風により格納庫ごと全壊してしまいました。また、2号機「プチーチュカ」や3号機「バイカル」など、複数機のブラン型宇宙往還機が開発・製造途中でしたが、これらも計画中止により全て未完成のまま終わりました。

現在、バイコヌール宇宙基地内にある博物館の敷地には、ブランの試験モデルが展示されています。展示されている機体のコックピットは当時の状態が保存されており、その他は博物館の一部として公開されています。

ブランの開発過程で使用された試験機OK-GLIは、2000年にオーストラリアで展示された後、2002年にバーレーンへ移送され、しばらくの間放置されていました。2004年になり、この機体をドイツのシュパイアーにあるシュパイアー技術博物館が引き取ることが決定。2008年3月から4月にかけて船で輸送され、現在は同博物館で展示されています。

ブラン計画では、機体の輸送のために特製の航空機が使用されました。それが、O・K・アントーノフ記念航空科学技術複合が設計・製造したAn-225ムリーヤです。世界最大の航空機として知られるこの機体は、ブランを搭載して運ぶ専用機としての役割を担いました。

計画中止後も、ブランには再び光が当たる可能性が示唆されることがありました。一時は放置状態だったAn-225が商用貨物機として現役復帰する際に、ブランを商用衛星打ち上げ用として復活させる計画も検討されましたが、これは実現しませんでした。しかし、ロシア政府は、将来的にプロトンロケットの能力を超える重量物打ち上げの需要が増加した場合に備え、ブランを現役復帰させる計画を「現時点で凍結」という形で維持しているとされています。

さらに、2013年9月には、当時のドミトリー・ロゴージン副首相が、将来的に航空機が高高度を飛行する可能性に触れ、「遅かれ早かれ時代を先取りしたブランのような計画に立ち戻らざるを得ない」と発言し、旅客機としての開発再開もあり得ることを示唆するなど、ブラン計画の遺産や将来の可能性について言及されることもあります。

ブラン計画は、ソビエト連邦の技術力の高さと、冷戦下における宇宙開発競争の激しさを象徴するプロジェクトであり、その機体や関連技術は、形を変えながら今もその存在を示しています。

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