ブラン2.03

ソ連のブラン計画オービター 2.03

概要

2.03は、かつてソビエト連邦が進めていた再利用型宇宙往還機計画、通称「ブラン計画」において、建造が開始された機体群のうち、五番目に位置づけられるオービターです。正式な固有名称は与えられていませんでしたが、開発段階ではOK-2.03、あるいは単にシャトル2.03、ブラン2.03などと呼ばれることがありました。この機体は、ブラン計画の初期型オービターの設計思想を改良・発展させた「第2世代」に属するオービターとしては、三番目に開発が進められた機体にあたります。

開発状況と計画中止

ブラン計画は、アメリカのスペースシャトルに対抗するため、ソ連が威信をかけて進めた大規模な宇宙開発プロジェクトでした。複数のオービターの建造が計画され、実際に一部の機体は完成または相当程度開発が進められました。しかし、ソビエト連邦の崩壊とその後の経済的な混乱は、この巨大プロジェクトの継続を困難にしました。

2.03の開発は、このような状況下で進められていました。計画中止が決定された1993年の時点で、2.03の製造は他の先行する機体に比べて大きく遅れていました。具体的には、機体全体の形を成すほどの組み立ては全く進んでおらず、ごく一部の構造部品やコンポーネントの製造が始まった段階に過ぎなかったと言われています。したがって、実質的には開発のごく初期段階で作業が停止した状態でした。

機体の運命と現況

1993年のブラン計画正式中止の決定は、開発途上にあった2.03にとって、その存在の終わりを意味しました。既に製造されていたごくわずかな部品や構造体も、計画の中止に伴って価値を失い、研究資料として保管されることなく、その直後に全てが廃棄処分されました。解体・処分は徹底して行われたため、現在、2.03という特定の機体を構成していた物理的な遺物は、残念ながら地球上のどこにも残っていません。博物館や研究機関にブラン計画に関連する部品が展示されていることはありますが、それらが2.03のために製造されたものとして特定できるものはありません。

資料の希少性

2.03は、機体として完成に至らなかったことに加え、開発期間が極めて短く、製造もごく初期段階で停止したため、一般的な開発途上機に存在するような写真資料がほとんど存在しません。機体全体の姿はもちろんのこと、主要な部分が組み上がった状態を捉えた写真も存在しないため、「実質的に2.03の写真は存在しない」とされています。これは、計画中止が開発プロセスの非常に早い段階で行われ、その後の処理が迅速かつ徹底的であったことを強く示唆しています。

名前の欠如

ブラン計画における他のオービター、例えば初号機「ブラン」や二号機以降の開発途上機には、非公式ながらも「ストレル」「バイカル」といった開発名や愛称が与えられることがありました。しかし、2.03については、開発が初期段階で止まり、その存在期間があまりにも短かったためか、公式な固有名称はもちろんのこと、開発関係者の間での非公式な愛称すら一切与えられることはありませんでした。番号である「2.03」が、この幻の機体を識別する唯一の符丁となりました。

結論

ブラン計画オービター2.03は、ソビエト連邦の壮大な宇宙開発の夢が生み出したものの、国家体制の激変という歴史の大きな波に呑み込まれ、日の目を見ることなく消滅した悲劇的な存在です。ほとんど組み立てが進まないうちに廃棄され、物理的な痕跡も、視覚的な記録も、そして固有の名称すら残されなかったその事実は、ブラン計画の abrupt な終焉と、冷戦終結後のロシアが直面した困難な状況を象徴していると言えるでしょう。2.03の物語は、失われた可能性と、歴史の転換点における巨大プロジェクトの脆さを静かに物語っています。

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