ブリキの太鼓

概要

『ブリキの太鼓』（原題：Die Blechtrommel）は、1959年にドイツの作家ギュンター・グラスによって発表された長編小説です。この作品は、1961年の『猫と鼠』、1963年の『犬の年』と共に「ダンツィヒ三部作」と呼ばれ、第二次世界大戦後のドイツ文学において重要な位置を占めています。映画化もされ、1979年にはフォルカー・シュレンドルフによる映画が公開され、カンヌ国際映画祭でパルム・ドール賞やアカデミー外国語映画賞を受賞しました。

あらすじ

物語は1954年、精神病院に収容されている30歳のオスカル・マツェラートが中心です。彼は自身の半生を看護人に語る形で物語が展開します。オスカルは生まれつき幼児の身体に成年の知能を持つ特異な存在で、世の中を冷めた視点で観察しています。自らの行動によって愛する人々を次々と死に追いやるオスカルは、終盤では誰の保護も受けられなくなったことで驚愕します。

物語の始まりは1899年、オスカルの祖母がジャガイモ畑で妊娠するところから始まります。1924年にオスカルが誕生し、父のアルフレートが「ブリキの太鼓」を贈ることで、3歳までの成長を決めたオスカルは、意図的に地下に転落し、成長が止まったと周囲に信じ込ませます。この行動が母アグネスと父アルフレートの関係に亀裂を生じさせ、さらなる問題を引き起こします。

オスカルは超音波を用いてガラスを割る能力を持つ特異な少年で、その能力に対する周囲の反応も様々です。一方、アグネスは彼の育児に悩み、精神的に追い詰められることで過食症に苦しむようになります。やがて、精神のバランスを崩して自ら命を絶つこととなり、オスカルの心には深い孤独と空虚が広がります。

この作品はオスカルの視点を通して、ナチ党政権前後の小市民の心情や、戦争の混乱の中で繰り広げられる人間ドラマを描いています。オスカルの冷静な視点は、社会の歪みや人間の本質についての強烈な問いを投げかけています。

登場人物

- オスカル・マツェラート：成長を止めた3歳の少年。ガラスを破壊する能力を持つ。
- アルフレート・マツェラート：オスカルの父、ナチス党員で食料雑貨店を経営。戦争の終焉を迎えつつある時期において、神経質になりつつも家庭を思いやる一面もある。
- アグネス・マツェラート：オスカルの母であり、夫との不和から心を病んでいく。
- ヤン・ブロンスキ：アグネスの恋人であり、オスカルの実父である可能性がある謎めいた人物。

映画化と論争

1979年に公開された映画『ブリキの太鼓』は原作に忠実であり、その濃厚な性的描写のために物議を醸しました。公開後、児童ポルノとしての疑惑が浮上し、北米で検閲や上映禁止の問題が発生。特にオクラホマ州では裁判沙汰にまで発展した経緯があります。この裁判は、公式に映画の内容を審査することが求められ、結果としてその影響は広まり、作品の評価にも影響を及ぼしました。

一方、中国ではこの作品が一般上映を禁止され、特定の場所での非公開上映が黙認されています。既存の価値観や文化と向き合う作品として、『ブリキの太鼓』は常に議論を呼び起こしてきました。

結論

『ブリキの太鼓』は、その衝撃的なテーマと複雑な構造を通じて、時代の変化と人間の本質について深く考察させられる作品です。戦争の影響や個人のアイデンティティの探求は、今なお読者や視聴者に強いメッセージを送り続けています。

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