ブリティッシュエアウェイズ149便乗員拉致事件

ブリティッシュ・エアウェイズ149便乗員拉致事件：湾岸戦争の影と隠された真実

1990年8月1日、イラクによるクウェート侵攻という国際的な緊張の高まりの中で、ブリティッシュ・エアウェイズ149便はロンドン・ヒースロー空港を離陸しました。クウェート、マドラス、クアラルンプールへと向かう予定でした。しかし、このフライトは想像を絶する事態に巻き込まれることになります。

クウェートへの危険な着陸

すでにクウェート情勢の緊迫化が報道される中、出発直前の空調設備のトラブルにより出発が遅延したにもかかわらず、149便は予定通りクウェートへ向かいました。周辺諸国へ向かう他の航空機が飛行ルート変更や欠航を選択する中、149便はイラク軍による侵攻開始から約4時間後の8月2日午前3時、クウェート国際空港に着陸しました。

着陸直後、クウェート国際空港はイラク軍の攻撃を受け、クウェート全域は占領されました。149便の乗客乗員385名、ほとんど全員がイラク軍に拘束され、クウェート市内のホテルに監禁されたのです。

興味深いことに、乗客の中にイギリス陸軍特殊部隊SASの工作員6名が潜伏していたことが、後に証言によって明らかになります。彼らは拘束を免れ、クウェート市内での諜報活動に従事しました。一部は脱出後、アメリカ軍のヘリコプターによって救出されたとされています。

人間の盾：バグダードへの強制連行

監禁された乗客のうち、イギリスやアメリカなど欧米諸国の国籍を持つ者たちは、他の欧米人市民と共にイラクの首都バグダードへ強制連行されました。彼らは湾岸戦争における多国籍軍の攻撃に対する「人間の盾」として人質にされたのです。この行為はジュネーヴ条約違反であり、国際的な非難を招きました。

人質となった乗客の多くは湾岸戦争が終結する12月までに解放されましたが、イラク兵による戦争犯罪、具体的には客室乗務員への強姦や、クウェート王族の処刑といった悲惨な出来事も発生していたと報告されています。

一方、149便に使用されたボーイング747-100型機は、多国籍軍による空爆で損傷を受け、1991年2月のイラク軍撤退時には完全に破壊されました。

隠蔽と真実：イギリス政府とブリティッシュ・エアウェイズの対応

149便のクウェート着陸の真の目的をめぐっては、様々な憶測が飛び交いました。SAS工作員潜入のための強行着陸という説が、工作員や一部乗客の証言から浮上しましたが、イギリス政府はこれを否定しました。当時のサッチャー首相は、侵攻開始前に着陸したと証言したものの、後に虚偽であることが判明しています。

ブリティッシュ・エアウェイズもまた、アメリカ人乗客からの訴訟に対し、乗客名簿が存在しないと主張した後、国家機密として公開を拒否するなど、不透明な対応を行いました。しかし、フランスの裁判では、工作員潜入を目的とした着陸が認められ、同社は慰謝料の支払いを命じられました。

ブリティッシュ・エアウェイズ149便乗員拉致事件は、湾岸戦争という国際紛争の只中で起きた、人道的な危機と政治的な陰謀が複雑に絡み合った悲劇的な出来事でした。事件の真相は、いまだ多くの謎を残したままです。 この事件は、戦争の残酷さと、国家による情報操作の可能性について、我々に深刻な問いを投げかけています。

もう一度検索