ブリュッガー&トーメ VP9

ブリュッガー＆トーメ VP9：動物の安楽死を目的とした消音拳銃

スイスのブリュッガー＆トーメ社（B&T）によって開発されたVP9は、特異な用途を持つ消音拳銃です。その名前は「獣医用9mm拳銃」を意味し、大型動物や危険性の高い動物を人道的に安楽死させるための設計となっています。

開発の経緯

B&T社は軍や法執行機関向けの小火器、特に消音器で高い評価を得ているメーカーです。VP9の開発は、ヨーロッパの顧客から消音ボルトアクション拳銃25丁の製造依頼があったことがきっかけでした。納期はわずか4ヶ月と短く、設計にはウェルロッドと呼ばれる消音拳銃が参考にされました。最終的には顧客向け25丁と社内用5丁の計30丁が製造されました。

VP9の用途と特徴

通常、家畜の安楽死には薬物注射が行われますが、大型で凶暴な動物には銃器の使用が適している場合があります。VP9は、獣医のような熟練した射手ではない者にとっても安全に扱える単発式拳銃です。

消音性が高いことは、周囲の動物を驚かせたり、作業者のコミュニケーションを妨げたりすることを防ぐ点で重要です。コンパクトな外観も、周囲への不安感を軽減する効果があります。また、9mm FMJ弾の使用は、動物の死体を大きく損壊する可能性を低減します。

初期のマニュアルには、安楽死を迅速かつ人道的に行うための動物別標的図解が含まれていました。これは獣医だけでなく、警察官や動物管理局員なども想定したものです。

アメリカ向けモデル：ステーション・シックス

2021年には、アメリカ合衆国の輸入規制に適合したモデル「ステーション・シックス」が発表されました。これは、VP9と同じ9mm仕様の「シックス9」と.45ACP弾仕様の「シックス45」の2種類があります。アメリカへの拳銃輸入には、弾倉を外した状態で特定のサイズ以上であるという規制があり、ステーション・シックスは、この規制をクリアするために機関部とグリップ基部が延長されています。B&T USAは、ステーション・シックスの発売前に、ヨーロッパ仕様のVP9を250丁限定でアメリカ国内で販売しました。

構造と機構

VP9は、第二次世界大戦中のイギリス製消音拳銃ウェルロッドと構造が似ていますが、小型軽量です。鋼鉄製の機関部は円筒形で、銃身は非常に短く（50mm、薬室16mm）、ガス抜き穴が15個開けられています。この構造により、標準的な9mm弾でも300m/秒以下に減速され、十分な消音効果が得られます。作動方式はボルトアクションで、モーゼル小銃のようなロッキングラグを備えています。弾倉はSIG P225を原型としており、装弾数は5発に減らされ、ポリマー製グリップシュラウドが取り付けられています。

銃身の短さや消音器の構造上、長距離射撃の精度は高くありませんが、訓練用消音器を使用することで改善されます。消音器は複数のゴム製ワッシャーで区切られており、弾頭が通過した後にガスを遮断します。ワッシャーは消耗品であり、射撃回数に応じて交換が必要です。付属の練習用消音器は、合金製で、B&T社のImpuls IIA消音器と同様の構造を持ちます。

Mil-Std-1474 D試験では、VP9の銃声は129dBAを大きく下回り、空気銃と同程度でした。また、NATOアクセサリーレールが付属し、フラッシュライトやレーザーサイトなどを装着できます。ステーション・シックスはVP9より大型で、弾倉容量は9発に増加しています。

まとめ

VP9は、その特異な用途と高い消音性、そして巧みな設計によって、動物の安楽死という難しい課題に特化した優れた拳銃と言えるでしょう。その歴史や技術的詳細、そしてアメリカ市場への展開を知ることで、この独特な武器の奥深さを理解することができます。

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