ブリューマ・ゼイガルニク

ブリューマ・ヴリホヴナ・ゼイガルニク（1901年11月9日 - 1988年2月24日）は、20世紀のソビエト連邦を代表する心理学者であり、精神科医でもありました。現在のリトアニアにあたるプリエナイに生まれ、心理学の発展に重要な貢献をしました。

初期キャリアと「ゼイガルニク効果」の発見

ゼイガルニクのキャリアにおいて大きな転機となったのは、ベルリン大学への留学です。ここで彼女は、高名な心理学者クルト・レヴィンの指導を受ける機会に恵まれます。レヴィンのもとで行われた実験研究を通じて、人間は、完了したタスクよりも中断されたり未完了のままになっていたりするタスクの方が、より鮮明に覚えている傾向があるという心理現象を発見しました。この発見は、後に「ゼイガルニク効果」として広く認知されることになります。彼女のこの画期的な研究成果は、1927年に発表された論文「完了および未完了行動の保持」に詳細が記されています。

ソ連帰国後の活動と病理心理学

留学を終えたゼイガルニクはソビエト連邦に戻り、モスクワにあるロシア社会主義共和国保健省精神医学研究所を研究活動の拠点としました。彼女は特に病理心理学、すなわち精神的な疾患を持つ人々の心理状態や行動様式を研究する分野の専門家として活動しました。この時期、彼女はレフ・ヴィゴツキーやアレクセイ・レオンチェフといった、当時のソ連心理学界を牽引した学者たちと密接に関わります。特にヴィゴツキーとは共同研究を行う関係にもあり、彼らが提唱した文化歴史的活動理論や発達心理学の原理を、精神疾患、とりわけ統合失調症患者の心理的特性を理解するための研究に応用しました。

精神病理学への貢献

ゼイガルニクはまた、ドイツの心理学者ハインツ・ホッペが開発した、個人のパーソナリティの反応傾向を評価する手法にも着目しました。この方法論を精神病理学の分野に導入し、精神疾患患者の人格的な側面やその変化を研究するための有用なツールとして活用しました。

彼女の重要な研究の一つに、統合失調症患者の情意（感情や意欲）やパーソナリティにおける障害に関するものがあります。この研究では、統合失調症においてしばしば見られる情意や人格面の困難が、具体的な課題遂行のパターンにどのように現れるかを実験的に明らかにしました。彼女は、統合失調症の患者が、課題の成功・不成功に対する反応の仕方や、難易度の異なる課題を選択する傾向において、独特のパターンを示すことを発見しました。これは、課題の達成度とそれに対する情動的反応、あるいは課題の困難さに対する認知や選択行動が、統合失調症では特異的な形で障害されていることを示唆しており、精神疾患の心理的メカニズムの理解に新たな視点をもたらしました。

後半生と影響

ゼイガルニクの後半生に関する詳細な情報は、冷戦期の状況もあり、長らく西側諸国ではあまり知られていませんでした。彼女の業績や人物像の全体像が広く知られるようになったのは、比較的近年になってからです。彼女は1988年2月24日にモスクワで生涯を終えました。

彼女の名前は「ゼイガルニク効果」によって世界的に有名ですが、それにとどまらず、病理心理学という分野をソ連国内で確立・発展させ、ヴィゴツキー学派の理論を精神疾患研究に応用した功績も非常に大きいものです。彼女の研究は、今日の臨床心理学や精神医学においても参照される重要な知見を提供しています。

主要論文

「完了および未完了行動の保持」（1927年）
「知的障害児の情意領の研究方法」（論文集『精神病者の情意領の研究方法』所収、1965年）
「知的障害児の情意領の障害」（邦訳、山口薫編訳、ソビエト心理学研究会『ソビエト心理学研究』第4号、1967年）

関連項目

ゼイガルニク効果
* レフ・ヴィゴツキー

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