ブレーメン (客船・3代)

ブレーメン号：栄光と悲劇の物語

1929年、北ドイツ・ロイド社は、当時としては革新的なデザインと圧倒的な速力を誇る豪華客船『ブレーメン』を建造しました。これは、大西洋横断航路でのスピード競争が激化していた時代にあって、ドイツがその技術力を世界に示す象徴的な存在でした。

驚異的な速度と豪華さ

『ブレーメン』は、姉妹船『オイローパ』とともに、大西洋横断を5日間で航行できるよう設計されました。これは当時としては画期的な速さで、通常3隻体制だった大西洋航路を、閑散期には2隻で毎週運行可能にするほどでした。実際、ブレーメンは試験航海で最高速度32ノットを記録し、その性能の高さを証明しました。

1929年7月16日、ブレーメンは処女航海に臨みました。この航海でブレーメンは、西回り航路で4日17時間42分、平均速度27.85ノットという驚異的な記録を樹立し、従来の記録保持者であった『モーリタニア』号からブルーリボン賞を奪取しました。さらに次の航海では、東回り航路でも記録を更新し、処女航海で両方のブルーリボン賞を獲得するという快挙を達成したのです。

先進技術の結集と豪華な内装

『ブレーメン』の建造には、ドイツの最先端技術が惜しみなく投入されました。バルバス・バウ（球状船首）を採用した大型客船としては最初期の例であり、内装デザインや備品についても、国内コンペティションを通して選定され、豪華さを極めた空間が創出されました。また、カタパルトも設置され、1935年までは郵便物を先行輸送するサービスも提供していました。

政治的嵐と戦争の影

しかし、『ブレーメン』の運命は、平穏な航海とは程遠いものでした。1933年、ナチス政権が誕生すると、ニューヨークに停泊中の『ブレーメン』は、反ナチス運動の舞台となりました。反ナチス活動家グループが船に乗り込み、ナチ党旗を降ろしてハドソン川に投げるという事件が発生したのです。この事件は、ドイツとアメリカの外交問題に発展しました。

1939年、第二次世界大戦が勃発すると、『ブレーメン』はドイツ海軍の命令により、ドイツの港に向かうよう指示されました。しかし、ニューヨークに近海にいた船長は、乗客1770名を下ろしてから出航することを決断しました。その後、『ブレーメン』はソ連のムルマンスクへと向かい、イギリス海軍の追跡を逃れながら、厳しい状況下を航海しました。

悲劇の結末

1939年末、『ブレーメン』はドイツへの帰還途中に、イギリス駆逐艦の追跡を受け、緊急避難を余儀なくされます。そして、1941年、ドイツ国防軍が『ブレーメン』の徴用計画を中止した後に、造船所の埠頭で火災により全焼してしまいました。調査の結果、この火災は放火によるものと判明し、乗組員による犯行であったことが明らかになります。戦後、残骸は解体されました。

『ブレーメン』は、その豪華さ、スピード、そして波乱に満ちた歴史を通して、20世紀前半の大西洋航路史における重要な証人として、今も人々の記憶に残っています。その栄光と悲劇の物語は、時代の転換期を生き抜いた一艘の船のドラマとして、私たちに多くのことを語りかけてくれます。

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