ブロット＝スヴェン

ブロット＝スヴェン：異教の血を引くスウェーデンの王

ブロット＝スヴェン（生年不詳 - 1087年頃）は、11世紀後半、1080年頃にスウェーデンで王位を主張した人物です。当時のスウェーデン王であったインゲ1世が、伝統的な異教の儀式「ブロット」を拒否したことから、王位を簒奪する形で王となりました。

王位簒奪の経緯

ブロット＝スヴェンがどのようにして権力を掌握したのかは、アイスランドのサガ『ヘルヴォルとヘイズレク王のサガ』に記述が残っています。インゲ1世は、父ステンキルとは異なり、国民に古くからの慣習を強要しませんでした。しかし、スヴェート人はこれに強く反発し、インゲ王に伝統に従うか、放棄するかを迫りました。インゲ王がキリスト教の信仰を捨てることを拒否すると、人々は彼に石を投げつけ、国から追放しました。この出来事が、スヴェンが王位を簒奪する機会となりました。

『ヘルヴォルとヘイズレク王のサガ』には、スヴェンの即位に関連して、古代インド・ヨーロッパの儀式である馬の生贄に関する記述も含まれています。これは、当時のスウェーデンにおける異教信仰の根強さを示すものと言えるでしょう。

聖エスキルの伝説

後世に書かれた『聖エスキルの伝説』にも、ブロット＝スヴェンに関する記述が見られます。この伝説によれば、インゲ王が王国から追放された後、スヴェンという名の取るに足りない人物が、偶像崇拝者として王に選ばれました。スヴェンは神々に捧げた雄牛の血を人々に飲ませ、その肉を食べさせたことから、「ブロット＝スヴェン」と呼ばれるようになったとされています。

人々はストレングネースに集まり、牛や羊を屠って神々に捧げ、盛大な宴会を開きました。そこへ、イングランドの司教エスキルが現れ、異教徒をキリスト教に改宗させようと試みます。しかし、エスキルの言葉に耳を傾ける者はいませんでした。エスキルが祈ると、神は雷、雹、雪、雨を降らせ、犠牲の祭壇と獣を破壊しましたが、エスキル自身には一滴も落ちませんでした。しかし、異教徒たちは感銘を受けることなく、エスキルを攻撃し、占い師がエスキルの頭を石で打ち砕き、別の男が斧で頭を割り殺害しました。伝説によれば、一部の首長は、エスキルが天候を操る魔法を使ったと主張し、瀕死のエスキルを王の前に引きずり出しました。ブロット＝スヴェンはエスキルに死刑を宣告し、エスキルは谷に連れて行かれ、石を投げられて殺されました。この谷には後に修道院が建てられたと伝えられています。

ただし、この伝説は13世紀後半以降に伝えられたものであり、史実とは異なる可能性があります。カンタベリーのアエルノス（1122年頃）は、エスキルが異教徒によって殺害されたと記していますが、聖職者の歴史家ブレーメンのアダム（1075年頃）はエスキルの死について触れていません。そのため、エスキルは11世紀後半に活躍した人物であると考えられていますが、彼の死はおそらく1016年頃、ブロット＝スヴェンの時代よりも数世代前の出来事であったという説もあります。

ブロット＝スヴェンの最期

『ヘルヴォルとヘイズレク王のサガ』によれば、ブロット＝スヴェンの治世は長くは続かず、インゲ1世はブロット＝スヴェンを殺害することを決意したとされています。

『オークニー諸島人のサガ』にも同様の記述があり、それによると、ブロット＝スヴェンは家の中に閉じこもったまま焼死したと伝えられています。

王位の継承

インゲ王は、異教徒の勢力が強いウップランド地方のスヴェート人には、すぐに受け入れられなかった可能性があります。13世紀の歴史家スノッリ・ストゥルルソンは、『ヘイムスクリングラ』において、ブロット＝スヴェンには、犠牲の慣習を続けた異教徒の後継者がいたと記しています。

エリク・オーセルは、他の資料ではブロット＝スヴェンの息子とされていますが、今日ではほとんどの歴史家が、エリク・オーセルは実在の人物ではないと考えています。

ブロット＝スヴェンの治世は短く、その実像は謎に包まれていますが、当時のスウェーデンにおける宗教的な対立や、王権を巡る争いを象徴する人物として、歴史に名を残しています。

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