ブロンテ姉妹 (映画)

アンドレ・テシネ監督による1979年のフランス映画『ブロンテ姉妹』（原題：Les Sœurs Brontë）は、19世紀イギリスを舞台に、文豪として名高いブロンテ三姉妹の波乱に満ちた生涯を描いた伝記ドラマです。イザベル・アジャーニ、マリー＝フランス・ピジェ、イザベル・ユペールというフランス映画界を代表する豪華女優陣が出演し、それぞれエミリー、シャーロット、アンを熱演しています。

物語は、既に他界した二人の姉、マリアとエリザベスの存在を背景に幕を開けます。教師として働くシャーロット、家事手伝いをしながら詩作に没頭するエミリー、そしてアンの三姉妹の生活は、決して平穏なものではありませんでした。シャーロットが男性の筆名「カラー・ベル」で発表した小説『ジェイン・エア』の大成功は、彼女たちの人生に大きな転機をもたらしますが、同時に、当時の女性を取り巻く厳しい社会状況も浮き彫りにします。

一方、唯一の男性である兄弟、ブランウェルは、家庭教師先の主婦との禁断の恋に身を焦がし、破滅的な生活を送ります。彼の不幸な最期は、三姉妹の運命に暗い影を落とします。やがて、エミリーとアンも病に倒れ、相次いでこの世を去ります。

シャーロットは、愛する家族を失いながらも、作家として成功を収めます。しかし、栄光の裏には、深い孤独と喪失感が潜んでいました。映画のラストシーンでは、シャーロットがブランウェル、エミリー、アンを偲び、彼女たちの短い生涯を静かに悼む姿が描かれます。

この映画の見どころは、単にブロンテ三姉妹の伝記をなぞるだけでなく、彼女たちの内面世界や複雑な人間関係を丁寧に描き出している点にあります。野薔薇を愛でるシャーロットと、柊を愛でるエミリーの姿は、彼女たちの異なる個性と感性を象徴的に表現しています。また、当時としては画期的な女性の自立や社会進出への葛藤、そして時代の制約の中で懸命に生きる女性たちの姿は、現代の観客にも強い共感を呼び起こします。

キャスト陣の演技も素晴らしく、特にイザベル・アジャーニのエミリーは、繊細さと強さを兼ね備えた魅力的なキャラクターとして描かれています。マリー＝フランス・ピジェのシャーロットも、知性と自立心を持ちながら、心の奥底に秘めた孤独を漂わせる演技が印象的です。イザベル・ユペールは、控えめながらも芯の強いアンを好演しています。

音楽も映画の雰囲気を大きく彩っています。フィリップ・サルドはオリジナルスコアではなく、シューマンやショパンなどのクラシック音楽を巧みに使用することで、時代背景や登場人物の感情を効果的に表現しています。終盤のオペラ鑑賞シーンでは、ロッシーニの『タンクレーディ』の序曲が使用されているのも注目すべき点です。

さらに、興味深いトリビアとして、著名な哲学者、ロラン・バルトがウィリアム・メイクピース・サッカレー役として出演している点が挙げられます。これはバルトにとって唯一の映画出演作品であり、その貴重な姿を見ることができるのも、この映画の魅力の一つです。

『ブロンテ姉妹』は、優れた脚本、豪華なキャスト、美しい音楽が融合した、忘れがたい名作です。19世紀イギリスの社会風俗や女性の生き様、そして文学史に残る三姉妹の生涯に興味のある方々に、強くおすすめしたい作品です。

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