ウィリアム・メイクピース・サッカレー

ウィリアム・メイクピース・サッカレー：ヴィクトリア朝を代表する小説家

ウィリアム・メイクピース・サッカレー (1811年7月18日-1863年12月24日) は、19世紀イギリスを代表する小説家の一人です。インドのカルカッタで生まれ、イギリス東インド会社に勤務する父親と、複雑な過去を持つ母親アンの間に誕生しました。サッカレーという名前は、日本語ではサッカリーやザッカリーと表記されることもあります。

波乱に満ちた生涯

6歳の時にイギリスへ渡り、母方の祖母のもとで育ちました。その後、名門チャーターハウス校を経てケンブリッジ大学トリニティ・カレッジに入学しますが、賭博に溺れ中退。その後は、ヨーロッパ大陸を放浪するなど、自由奔放な生活を送ります。この期間には、かのゲーテとも出会ったと伝えられています。 父親の遺産を投機に利用したり、週刊誌の出版や画家としても活動を試みましたが、いずれも失敗。さらに、インドの銀行代理店の倒産によって、ほぼ無一文の状態に陥ります。

1835年、ベラー・ショーと結婚。新聞社の通信員となりますが、2年で退職。その後は、雑誌『パンチ』などに評論や小説などの小品を寄稿して生計を立てました。初期の作品には、『アイルランド・スケッチブック』や『俗物の書』などがあります。

作家としての地位を確立したのは、代表作である『虚栄の市』の大成功がきっかけでした。この作品によって、サッカレーはチャールズ・ディケンズと並ぶ、ヴィクトリア朝を代表する小説家として広く認められるようになりました。その後も、『ペンデニス』、『ヘンリー・エズモンド』、『ニューカム家の人々』など多くの作品を発表し続けました。しかし、『デニス・デゥヴァル』の執筆中に52歳で死去しました。ウエストロンドンのケンサルグリーン墓地に埋葬されています。

上流階級への痛烈な批判

サッカレーの作品は、同時代のディケンズとは対照的な特徴を持っています。ディケンズが庶民や貧民の生活を描いたのに対し、サッカレーは自身の属する中流階級、特にその腐敗や俗物性を痛烈に批判しました。『虚栄の市』は、その代表例と言えるでしょう。華やかな上流社会の裏側にある虚栄や金銭主義、人間の醜い側面などを、鋭い観察眼とユーモラスな筆致で描き出しています。

しかし、サッカレーの批判には、しばしば20世紀の小説家ウィリアム・サマセット・モームと同様に、批判の対象を示すだけで、より良い代替案を提示できていないという指摘があります。単に欠点を暴くだけでなく、より建設的な展望を示すことができていれば、彼の作品はより大きな影響を与えたかもしれません。

ディケンズとは友人関係にあったものの、サッカレーを酷評した批評家をディケンズが支持したことから、二人は晩年まで不仲だったと言われています。

愛猫家としての側面

意外な一面として、サッカレーは熱烈な愛猫家だったことが知られています。「ルイーズ」という名の愛猫を溺愛し、一緒に過ごす時間を大切にしたり、食事を分け与えるなど、深い愛情を示していたそうです。

主な作品

サッカレーは多様な作品を残しました。初期の短編や風刺作品から、長編小説、クリスマス・ブックと呼ばれる短編小説集まで、その幅広さは注目に値します。代表作である『虚栄の市』以外にも、『ペンデニス』、『ヘンリー・エズモンド』、『ニューカム家の人々』など、多くの作品が翻訳され、現在でも読まれています。彼の作品は、ヴィクトリア朝イギリス社会の複雑な様相を理解する上で、重要な手がかりを与えてくれます。また、彼の鋭い観察眼と洗練された文体は、現代の読者にも新鮮な驚きを与え続けるでしょう。

参考文献

藤田清次『サッカレー研究』北星堂書店,1963
鈴木幸子『不安なヴィクトリアン』篠崎書林,1993
* 鈴木幸子『サッカレーを読む 続・不安なヴィクトリアン』篠崎書林,1996

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