ブローデル・リザーブ

アメリカ合衆国、ワシントン州のベインブリッジアイランドに静かに佇む「ブローデル・リザーブ（The Bloedel Reserve）」は、広大な敷地を持つ森林公園です。その総面積は約0.6平方キロメートル（150エーカー）に及び、特に自然環境を巧みに活かして整備された日本庭園が有名です。このリザーブは、元々は個人の邸宅に付属する形で構想され、造園が進められました。

沿革と思想

ブローデル・リザーブの歴史は、1951年から1986年までこの地で暮らし、庭園の創設に情熱を注いだプレンティス・ブローデル夫妻に始まります。プレンティスは、後に大企業となる製材会社の創業者を父に持ちますが、当初は教職にありました。しかし、1920年代末に父の要請を受けて家業に関わることとなります。事業活動においては、おがくずを燃料として再利用する試みを行うなど、早くから自然保護に対する深い関心を示していました。

実業界での成功を収めた後、プレンティスは1950年に早期に引退し、この土地を購入します。そして、妻バージニアと共に、この広大な土地に独自の庭園を創り上げる構想の実現に乗り出しました。彼らは、当時の自然保護運動の高まりや、東洋哲学への傾倒から強い影響を受けていました。特に日本庭園が持つ「自然との調和」「静謐さ」「繊細さ」、そして「畏敬の念」といった精神性を深く理解し、それを西洋の感性を通して表現することを志したのです。

このブローデル夫妻の哲学に基づいたアプローチは、リザーブにある庭園の姿に大きく反映されています。一般的な日本庭園に見られるような、多くの装飾物を用いて日本情緒を強調するスタイルとは一線を画し、より本質的な精神性を重視した、抑制された静的な美を追求した造りとなっています。彼らは自然そのものが持つ力を最大限に引き出すことを重視し、庭園を自然の一部として捉えました。

庭園の特徴

総面積150エーカーのうち、実に84エーカーもの広大なエリアが、再生した豊かな森林（二次林）によって覆われています。リザーブ内には、いくつかの特徴的な庭園エリアが存在します。

池泉庭園（Pond Garden）： 美しい池を中心に構成されたこの庭園は、クボタ・フジタロウ氏によって手がけられました。
石庭と苔庭： 1986年に造られた石庭と、緑の絨毯のような苔が広がる苔庭は、川名孝一氏の設計によるものです。静寂の中で石や苔が織りなす景観は、精神性を重んじる夫妻の哲学を体現しています。
* リフレクション・ガーデン（Reflection Garden）： 水面に周囲の木々や風景が美しく映り込むこの庭園は、リチャード・ハーグ氏とトーマス・チャーチ氏の協力によって誕生しました。水鏡が作り出す幻想的な景色は、訪れる者に深い瞑想を誘います。

これらの庭園エリアは、広大な自然林の中に点在しており、森の中を散策しながら移り変わる景色を楽しむことができます。

建築物

リザーブ内には、庭園と調和するいくつかの建築物があります。

1961年にポール・ヘイデン・カーク氏が設計したゲストハウスは、非常にユニークな構造をしています。日本の茶室が持つ簡素で洗練された空間構成と、アメリカ北西部の先住民文化に見られるログハウスの力強い要素が融合しており、異なる文化の美意識が見事に調和しています。

また、夫妻がかつて生活を送っていた邸宅は、1931年に建てられたフレンチ・シャトー様式の建物です。現在はビジターセンターとして活用されており、訪れる人々を迎えています。邸宅の内部には、夫妻が使用していた当時のオリジナルの家具が多く残されており、彼らの暮らしぶりを垣間見ることができます。さらに、この邸宅からは、ポートマディソン湾の息をのむほど美しい景色を一望することが可能です。

現在の運営

ブローデル・リザーブは現在、非営利団体であるArbor Fundの運営により、公共の庭園として広く公開されています。自然と芸術が融合したこの静寂な空間を保護し、より多くの人々にその魅力を伝えるための活動が行われています。ただし、貴重な環境と静穏な雰囲気を維持するため、来園は完全予約制となっています。

ブローデル・リザーブは、単なる美しい庭園というだけでなく、自然保護への意識、東西文化の融合、そして何よりも静寂と内省を重んじる哲学が形となった場所です。その独特な魅力は、訪れる人々に深い感動と癒しをもたらしています。

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