トーマス・チャーチ

トーマス・ドリーヴァー・チャーチ（Thomas Dolliver Church、1902年 4月27日 - 1978年 8月30日）は、20世紀のアメリカ合衆国を代表する造園家、作庭家、そして環境デザイナー（ランドスケープアーキテクト）です。特にアメリカ西海岸を主な活動拠点とし、個人邸の小規模な庭園設計を中心に数多くのプロジェクトを手がけました。伝統や既存の慣習にとらわれない革新的なデザインを次々と発表し、当時のランドスケープデザイン界に大きな影響を与えました。

チャーチの学歴は特筆すべき点であり、西海岸のカリフォルニア大学と東海岸のハーバード大学という、アメリカの東西を代表する二つの高等教育機関でランドスケープデザインを修めた最初期の人物の一人として知られています。この東西での学びが、彼の幅広い視野と独自のデザイン哲学の基盤となったと言えるでしょう。

ボストンで生まれたチャーチは、発明家の父と朗読家・国語教師の母のもとで育ちましたが、両親の離婚に伴いオハイオや南カリフォルニアへと転居を繰り返しました。庭造りへの興味は、幼少期に母方の祖父が趣味で楽しんでいた様子に触れたことが原点にあるとされています。

カリフォルニア大学バークレー校に入学当初は法律学を志していましたが、ランドスケープデザイン史の講義を聴講したことをきっかけにその分野に深く関心を持ち、専攻を改めました。バークレーでの教育は、当時の農学部に属していた学科の性質上、植物学などの自然科学系科目が重視され、2000種類もの植物を識別する課題が課されるなど、幅広い自然科学に関する知識を身につけました。その後、ハーバード大学のデザイン大学院に進学し、ランドスケープアーキテクチュアの修士課程を修了しました。ハーバード修了時にはシェルドンの奨学金を得て、1926年から約1年間ヨーロッパ各地を巡り、多様な庭園文化に触れることで見識を深めました。

ヨーロッパからの帰国後、1927年から2年間はオハイオ州立大学で講師として教鞭をとりました。その後サンフランシスコに移り、オークランドのフロイド・ミックのデザインスタジオで2年間勤務したのち、独立して自身の事務所を設立しました。

1930年代の不況を経て、アメリカ人の生活スタイルが変化する中で、チャーチは特に生活と一体化した屋外空間の重要性を提唱しました。当時、西海岸のライフスタイルをリードしていた雑誌『サンセット・マガジン』と協力し、庭園を単なる観賞の場としてだけでなく、芝生、樹木、テラス、バーベキューコーナー、プール、噴水といった要素を有機的に組み合わせた「アウトドア・リビング」という新しい生活様式を提案・促進していきました。この活動の一環としてチャーチが設計したサンセット社の見本庭園は、カリフォルニア州パル・アルトに現存し、今日でも一般に公開されています。この庭園は、カリフォルニアの気候を活かした快適な屋外生活のあり方を示す好例として、今も多くの人々に影響を与えています。

チャーチの設計者としての成功は、歴史的な庭園様式や既成概念にとらわれず、常に新しいデザインの可能性を探求したことに起因すると考えられています。彼の関心は一貫して個人邸の小規模な庭園に注がれ、その実践の多くはこうしたプロジェクトで行われました。特に、敷地の持つ本来の地形を最大限に生かす設計スタイルや、西海岸の植生であるブラック・オークのような既存樹を積極的に取り入れるといった斬新なアプローチは、その後のランドスケープデザインに大きな影響を与えました。1933年には、『カリフォルニア・アート・アンド・アーキテクチュア』誌上で、ランドスケープアーキテクトが建築家と同等の立場で創造的な仕事に取り組むべきである、という趣旨の声明を発表しています。また、彼の代表的な著書『Gardens Are For People（庭は人のために）』では、デザインの基本原則として「統一（Unity）」「機能（Function）」「単純さ（Simplicity）」「比例（Proportion）」の4つを提示し、多くの造園家に影響を与えました。

1930年代後半からは、こうした哲学に基づき、土地固有の特性や既存の植栽の価値を最大限に引き出すデザインを、個人庭園を中心に精力的に進めていきました。生涯で設計した庭園は2000件以上に及ぶと伝えられています。チャーチは単にデザインを行うだけでなく、完成した庭園に自ら剪定道具を持参して手入れに赴き、施主と庭を介して親密なコミュニケーションをとることを大切にしていました。これは、庭園が設計者の手から離れた後も生き物として成長し続けることを深く理解していたチャーチならではのエピソードと言えるでしょう。

初期の作品には、均整美やアイストップ、軸線などを意識した新古典主義的な構成も見られましたが、ランドスケープアーキテクトのフレッチャー・スティールとの出会いを経て、樹木や植物そのものの造形的な価値や自然な配置の重要性をより深く意識するようになり、作風が変化していきました。

デザイン活動以外では、フィンランドの建築家アルヴァ・アールトがデザインした家具や食器のアメリカ合衆国内における輸入代理店を務めるなど、デザイン全般への幅広い関心を持っていました。

チャーチらの西海岸における革新的な作風は、後に評論家ルイス・マンフォードによって「ベイ・エリア・スタイル」と名付けられ、現代ランドスケープデザインの源流の一つとして位置づけられています。

彼の功績は高く評価され、1951年にはアメリカ建築家協会（AIA）から芸術賞のメダルを授与されました。1967年には雑誌「ハウスビューティフル」において、オットー・クレンペラー（指揮者）、マルセル・ブロイヤー（建築家）と共に「現在の3賢人」として紹介されるなど、その影響力は造園界を超えて広く認識されていました。1977年に設計活動から引退しました。

トーマス・チャーチは、単なる美しい庭園を設計するだけでなく、庭園を人々の生活の一部として捉え直し、機能的で快適な屋外空間のあり方を追求しました。その独創的なデザインと哲学は、今日に至るまで多くのランドスケープアーキテクトに影響を与え続けています。

主な作品

サンセット・マガジン社見本庭園（カリフォルニア州パル・アルト）
ドネル邸庭園（カリフォルニア州ソノマ）
ゼネラルモーターズ技術センター（エーロ・サーリネンらと共同）
メイヨー・クリニック庭園（ミネソタ州ロチェスター）
* カリフォルニア大学バークレー校、サンタクルーズ校などのキャンパス計画

など多数。

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