ブーランジェ将軍事件

ブーランジェ将軍事件について

ブーランジェ将軍事件（ブーランジェしょうぐんじけん）は、1886年から1889年にかけてフランス第三共和政の下で展開された反議会主義的かつ反共和主義的な政治運動です。この事件は、ブーランジェ将軍を中心に形成された運動であり、同時にブーランジェ事件やブーランジスムとも呼ばれています。

事件の背景

ブーランジェ事件が発生する前のフランスは、普仏戦争の敗北によって大きな苦境に立たされていました。その結果、賠償金を支払い、名高い鉱業地帯であるアルザス＝ロレーヌを失いました。このため、国民の間にはドイツに対する強い敵意が生まれていました。また、1882年の金融恐慌による不況によって、これまでの経済成長が停滞し、フランスの工業生産はアメリカやドイツに後れを取り、段階的に世界第4位に転落しました。

当時のフランス社会では、帝国主義の拡大に伴う対外投資の問題や、ビスマルク体制によりフランスが孤立する外交政策が影響を与えていました。このような状況下、多党連立政権はしっかりとした対策を打ち出すことができず、社会主義政党もなお不安定でした。また、王党派内でもブルボン朝支持派とオルレアン朝支持派の対立が続くなど、混乱した政治状況が続いていました。

ブーランジェ将軍の台頭

そんな中、1886年1月に陸軍大臣に就任したジョルジュ・ブーランジェは、共和派に迎合する姿勢を見せ、兵制の改革に取り組みました。労働者の争議に対する同情的な態度を示しつつ、議会にて共和制護持の演説を行ったことで、彼は「共和的将軍」と称賛されました。

人気の高まりとその影響

ブーランジェは、1887年4月に発生したシュネブレ事件をきっかけに対独強硬論を強め、広く支持を集めることとなります。彼は「復讐将軍」として名を馳せ、右派からも熱烈に支持される存在となりました。しかし、1887年5月に新内閣が発足すると、ブーランジェの影響力を恐れた政府は彼をクレルモン＝フェランの軍団司令官に任命し、パリを遠ざける策を講じました。これに対し、多くの支持者が彼を援護するデモを起こし、彼への期待は逆に強まります。

王党派との連携

状況が変化する中、ブーランジェは王党派やボナパルティストと接触を始め、反共和主義勢力と手を結ぶ動きが見られました。彼は予備役に編入され、被選挙権を得た後には「国民委員会」を自称する組織が現れ、彼を候補者にするよう支援が行われました。

選挙での勝利とクーデターの未遂

1888年4月と8月には補欠選挙に立候補し、次々と圧勝を収めました。彼は「議会解散、立憲議会、憲法改正」を掲げ、1889年1月にはセーヌ県の選挙で大差で当選。支持者はブーランジェにクーデターを実行するよう誘導しましたが、彼がためらったため、この計画は潰えました。結果的に彼は急速に失脚し、逮捕状が出される事態となります。

結論

ブーランジスムは、議会外における民衆運動と反議会主義、人民投票型民主主義を特徴とし、ボナパルティズムに似た面を持ちながらも特定の支持基盤に限定されていた点で異なっていました。ブーランジェの運動はフランスの政治動向に大きな影響を与えることになりますが、彼の影響力が失われた後、支持勢力は急速に衰退していくこととなります。

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