プシェムィシル包囲戦

プシェムィシル包囲戦：第一次世界大戦における長期戦

プシェムィシル包囲戦は、第一次世界大戦中、オーストリア・ハンガリー帝国とロシア帝国の間で繰り広げられた長期にわたる激戦です。ガリツィア地方の要衝であるプシェムィシルを巡り、二度にわたる包囲戦が行われました。この戦いは両軍に多大な損害を与え、特にオーストリア・ハンガリー軍にとっては、その後の戦争遂行能力を大きく低下させる要因となりました。

背景

1914年8月、ロシア軍は東プロイセンと東ガリツィアへ侵攻を開始しました。東プロイセン方面ではタンネンベルクの戦いで敗北したものの、東ガリツィアでは優勢に戦いを進め、9月末までにカルパティア山脈まで到達しました。プシェムィシル要塞はガリツィアにおけるオーストリア・ハンガリー軍の唯一の拠点となり、ロシア軍がガリツィアを完全に占領した場合、シュレジエンやカルパティア山脈を越えてハンガリー平原へ進軍される可能性があったため、その防衛は非常に重要でした。

プシェムィシルの防衛のため、総延長50kmに及ぶ塹壕と1000kmの有刺鉄線が張り巡らされ、要塞には12万7千人の守備兵と1万8千人の市民が篭城しました。守備隊は多民族構成で、15もの言語で命令が発布される状況でした。包囲が長引くにつれ、飢餓やコレラの蔓延、民族間の不和が深刻化し、緊張が高まりました。

1度目の包囲

9月24日、ドミトリエフ将軍率いるロシア第3軍はプシェムィシルの包囲を開始しました。ロシア軍は十分な準備を整えないまま総攻撃を仕掛け、多くの損害を出しましたが、要塞攻略には至りませんでした。一方、ドイツ軍は北部でワルシャワ方面への攻撃を開始し、これに呼応してオーストリア・ハンガリー第3軍がプシェムィシル救援作戦を開始しました。10月11日、ロシア軍は包囲を解き、サン川まで撤退し、一時的にプシェムィシルは解放されました。しかし、救援軍の補給状況も悪く、要塞の備蓄に手を付けざるを得なかったため、かえってプシェムィシルの補給状況は悪化しました。

1ヶ月半後、ロシア軍の攻勢により、オーストリア・ハンガリー軍は再び撤退を余儀なくされ、プシェムィシルは再び包囲されることになりました。包囲直前、食料不足を緩和するため、住民には一時避難命令が出されました。

2度目の包囲

10月31日、ドイツ軍はヴィスワ川の戦いで敗北し、ワルシャワ攻撃を中止しました。これにより、オーストリア・ハンガリー軍もサン川まで撤退し、プシェムィシルは再び孤立しました。11月9日、ロシア軍はプシェムィシルの再包囲を開始しました。今度はセリバーノフ将軍率いる第11軍が包囲を担当し、正面攻撃ではなく兵糧攻めの方針を採りました。

オーストリア・ハンガリー軍は、要塞の物資が3月中には尽きると予測し、カルパティア山脈越えの救援作戦を何度も試みましたが、冬季の山岳地帯という悪条件と物資不足のため、多大な損害を出して失敗に終わりました。1915年2月には、新たな救援軍がプシェムィシルへ向かいましたが、解囲の望みは絶たれました。

3月13日、ロシア軍は要塞の北側防衛線を突破し、さらに攻撃を続けました。守備隊は、ロシア軍に利用されないよう都市の破壊を試みましたが、3月19日には、約1万人の兵士が包囲突破作戦を試みましたが、ロシア軍に撃退され、多くの犠牲者を出しました。物資も尽き、希望も失った守備隊は、3月22日に11万7千人の兵士とともに降伏しました。

結果

1915年春、ロシア軍はカルパティア山脈を越えてハンガリー平原への攻勢を試みましたが、地形の不利から失敗しました。その後、ドイツ・オーストリア連合軍によるゴルリッツ＝タルヌフ攻勢が開始され、6月にはプシェムィシルは奪還されました。しかし、プシェムィシル包囲戦とその後のカルパティア山脈での戦いで、オーストリア・ハンガリー軍は約100万人の損失を出し、その戦力は大きく低下しました。この損害は、オーストリア・ハンガリー帝国がドイツへの軍事的依存を強めることにも繋がりました。

プシェムィシル包囲戦は、第一次世界大戦における長期戦の象徴であり、戦争の過酷さを示す事例の一つと言えるでしょう。

参考文献

Timothy C. Dowling (2014). Russia at War: From the Mongol Conquest to Afghanistan, Chechnya, and Beyond.
Tucker, Spencer (2002) [1997]. The Great War, 1914-1918.
Written in Blood: The Battles for Fortress Przemysl in WWI by Graydon A. Tunstall, 2016
Prit Buttar(2015),Germany Ascendant:The Eastern Front 1915

関連事項

第一次マズーリ湖攻勢
第二次マズーリ湖攻勢
* ゴルリッツ＝タルヌフ攻勢

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