ゴルリッツ＝タルヌフ攻勢

ゴリッツ＝タルノフ攻勢：第一次世界大戦東部戦線の転換点

ゴリッツ＝タルノフ攻勢は、第一次世界大戦中の1915年春に、東部戦線の中央部で展開されたドイツ帝国とオーストリア＝ハンガリー帝国による大規模な攻勢です。当初、オーストリア＝ハンガリー軍へのロシア軍の圧力を軽減する目的で開始されましたが、この攻勢によってロシア軍は全戦線で潰走し、結果的にロシア領まで撤退を余儀なくされました。この攻勢は東部戦線の戦局を大きく左右する転換点となりました。

背景

第一次世界大戦勃発後、オーストリア＝ハンガリー軍はガリツィアでロシア軍と激戦を繰り広げましたが、次第にロシア軍に押され、1914年10月にはプシュムィシル要塞を除き、ガリツィアのほぼ全域から駆逐されました。また、セルビア戦線でもセルビア軍の反撃に遭い、約10万人の損害を出しながらも何の成果も得られませんでした。1914年冬から1915年春にかけて、コンラートはプシュムィシルの包囲を解くためにカルパティア山脈越えの攻勢を実施しましたが、地形の悪さと病気、凍傷により多大な損害を出し、進軍は頓挫。3月22日にはプシュムィシル要塞は陥落しました。この一連の戦闘でオーストリア＝ハンガリー軍は約100万人の損害を出し、戦力は著しく低下しました。

1915年春には、イタリア王国が協商国側で参戦する可能性が高まり、ルーマニア王国も同様の動きを見せていました。オーストリア＝ハンガリー軍の士気は低下し、ドイツ陸軍総司令部(OHL)は同軍の崩壊を懸念するほどでした。そのため、ドイツ軍はオーストリア＝ハンガリーへのロシア軍の圧力を緩和する対策を検討しました。当時、西部戦線での英仏軍の攻勢は夏以降になると見込まれており、ドイツ軍参謀総長のファルケンハイン大将は、西部戦線から兵力を抽出し、オーストリア＝ハンガリー軍の兵力と合わせて、ゴルリッツ＝タルヌフ地区でロシア軍を攻撃することを決定しました。

経過

この共同作戦では、ファルケンハインがドイツ軍とオーストリア＝ハンガリー軍を指揮することになりました。参加部隊にはオーストリア＝ハンガリー第4軍も含まれていました。ドイツ軍は西部戦線から列車500両を用いて8個師団を抽出し、新設された第11軍司令官にはアウグスト・フォン・マッケンゼン、参謀長にはハンス・フォン・ゼークトが任命されました。ドイツ第11軍は、18個師団半と5個騎兵師団半を有するロシア第3軍と対峙しました。

マッケンゼンの軍は、フランスとベルギーの要塞を破壊するために作られた列車砲を装備していました。また、ドイツ軍は飛行船と電話網を活用して、砲撃のための正確な観測を可能にしていました。ただし、攻撃用の砲弾は合計で3万発しか備蓄されていませんでした。整備されていない道での機動力を上げるために、ドイツの各師団はオーストリア＝ハンガリー帝国から200両の馬車と運転手が提供されました。

ファルケンハインは陸軍司令部をシュレジエンに移し、オーストリア＝ハンガリー帝国の司令部と1時間以内で連絡を取れるようにしました。また、スパイ工作を防ぐために住民を追い出しました。攻勢開始前に、北のドイツ第9軍と第10軍はリガ方面への牽制攻撃を行いました。4月22日にはドイツ軍はイーペル周辺で初の毒ガス攻撃を開始しましたが、これは西部戦線での連合国の注意をそらすための作戦であるとすぐに察知されてしまいました。ドイツ第11軍は10個歩兵師団と1個騎兵師団を有し、126,000人の兵士と457の野砲、159の重砲、96の迫撃砲を装備していました。一方、対峙したロシア軍は5個師団のみで、60,000人の兵士と141の野砲、4つの重砲しか装備していませんでした。第11軍は42kmにわたって敵陣を突破し、ロシア軍と対峙しましたが、前線のロシア軍は戦闘開始と同時に重砲が爆発してしまうという状況でした。

ロシア軍最高司令官ニコライ・ニコラエヴィチは、ドイツ軍がロシア軍と対峙したからといって攻撃の意図を持っているとは限らないという認識を持っていました。5月1日、中央同盟軍は重砲による絶え間ない砲撃を開始しました。午前6時には砲撃を開始し、午前9時には榴弾砲も加わりました。特に恐ろしいのは、爆発地点から半径10メートル以内の兵士を殺傷できる砲撃でした。ロシア軍陣地は排水溝程度の塹壕しかなく、容易に突破され、有刺鉄線も砲撃の爆風で吹き飛ばされました。マッケンゼンは局地的な反撃にもかかわらず、全戦線での前進を命令しました。そのため、各部隊は毎日、少しずつしか前進できませんでした。ロシア軍が押し返される中で、敗走する軍をまとめて反撃しても、損害が増えるだけでした。

ドミトリエフは突破口に迅速に2個師団を送り込みましたが、彼らが最高司令部に戦況を報告するよりも早く、完全に無力化されていました。5月3日、ニコライ・ニコラエヴィチは新たに3個師団を増援として送り込み、第一線部隊の限定的な撤退を支援しました。ドイツ軍の前途にはワイロカ川という地形的な障害がありましたが、橋を確保することで渡河に成功しました。5月5日までにロシア軍の防衛線を3カ所で突破し、5月9日には全ての部隊が目標地点に到達しました。ニコライ・ニコラエヴィチは限定的な撤退を認めたものの、さらに後方まで撤退して防衛線を再構築することは拒否しました。ロシア軍の反撃は堤防沿いで行われましたが、手榴弾や棍棒しか装備していない部隊もいました。オーストリア＝ハンガリー第3軍と第4軍はカルパティア方面への圧力を強めたため、ロシア軍は撤退を開始しました。5月12日の会議でマッケンゼンはサン川方面への前進を継続し、東への橋頭堡を確保しようとしました。攻勢を続けるためには、軍のきめ細やかな補給が不可欠でした。負傷兵の救護や、大砲、弾薬、その他の物資を前線に届ける必要があり、前進に伴い、後方の鉄道網の修復も必要でした。攻撃は準備砲撃の後に再開されました。

マッケンゼンの軍集団がサン川まで前進した時、ドイツの鉄道網からは150km以上離れていました。これ以上進軍するためには、占領地の鉄道を復旧する必要がありました。5月16日にはサン川に橋頭堡を形成しました。サンの東には、44の要塞に守られたプシェムィシルがありました。5月30日、ドイツ第11軍の大砲はプシェムィシルの要塞に対して砲撃を開始しました。莫大な数の臼砲はコンクリートを容易に粉砕しました。6月1日には歩兵が3つの大きな要塞を占領し、ロシア軍の反撃は失敗しました。2日後、ドイツ第11軍はプシェムィシルを奪還し、市民は熱狂的に歓迎しました。同日、オーストリア第4軍と第7軍は、ドニエストル川に向かっているロシア第11軍の側面を攻撃しました。

ファルケンハインは消耗したドイツ第11軍を、自身の最大の戦力として活用するため、人員や物資を補給しました。ロシア軍もまた防衛のために戦力を増強していました。ドイツ軍は次の目標を、さらに100km東のリヴィウに定めました。6月13日の攻撃でロシア軍はパニックに陥り、後退し始めました。6月21日、ニコライ・ニコラエヴィチはガリツィア全域の放棄を命じました。6月22日、マッケンゼン傘下のオーストリア＝ハンガリー軍は1日平均5.8km行軍し、合計310km進み、リヴィウに入城しました。ガリツィアの油田地帯はドイツ海軍にとって非常に重要で、この拠点を抑えることで、石油の製造能力と48万トンの石油を手に入れました。

一連の戦闘で、ロシア第3軍は14万人の捕虜を出し、戦力の大部分を失いました。例えば、第3コーカサス軍団は4月時点では約4万人の部隊でしたが、兵力は8000人まで減少しました。第3コーカサス軍団は、サンでのオーストリア第1軍との戦いに投入され、6000人の捕虜と9つの野砲を奪いましたが、5月19日までに1師団当たりの兵力は900名にまで減少しました。

結果

ゼークト将軍は、ドイツ第11軍はヴィスワ川とブク川を守りながら北のブレスト・リトフスク方面へ進軍すべきだと提案しました。一方、ヒンデンブルクとルーデンドルフは、第10軍とニーマンが新設した軍をヴィリニュス方面へ向かわせ、カウナスを奪取すべきだと主張しました。ヴィリニュスとブレストの間にいるドイツ軍は、ポーランドからロシアに通じる全ての主要な鉄道を切断しようとしていました。ポーランドにいたロシア軍は突出しており、包囲殲滅される可能性があり、そうなれば停戦条約を考慮しなければなりませんでした。フォルケンハインはポーランド戦線での秩序だった攻撃の代わりに、大胆な計画を採用することを決めました。

ロシア軍最高司令官ニコライ・ニコラエヴィチは、ドイツ軍の攻勢に圧迫され、ガリツィアとポーランドの突出部から撤退し、戦線を一直線にしようとしました。また、この撤退の間に武器などの物資を確保する時間を稼ごうとしました。この大規模な撤退は、1915年の大撤退として知られています。ワルシャワは8月5日にドイツ第12軍の手に落ち、8月末にはポーランド全域がオーストリア＝ハンガリー帝国とドイツの手に落ちました。

この戦いに勝利したドイツはロシアに講和会議を呼びかけましたが、ニコライ2世は参加を拒否しました。彼は連合国と締結した条約に含まれる単独講和の禁止条項を遵守しようとしていました。ニコライ2世はニコライ・ニコラエヴィチ大公を解任し、多くの臣下や皇族の反対を押し切って、自ら国軍最高司令官に就任しました。

脚注

関連項目

東部戦線（第一次世界大戦）
大撤退 (1915年)

参考文献

Foley, R. T. (2007) [2005]. German Strategy and the Path to Verdun: Erich von Falkenhayn and the Development of Attrition, 1870–1916 (pbk. ed.). Cambridge: CUP. ISBN 978-0-521-04436-3.
Stone, David (2015). The Russian Army in the Great War: The Eastern Front, 1914-1917. Lawrence: University Press of Kansas. ISBN 9780700620951.
Graydon J. Tunstall: Blood on the Snow: The Carpathian Winter War of 1915, University Press of Kansas, Lawrence, 2010.
Richard L. DiNardo: Breakthrough: The Gorlice-Tarnow Campaign, Praeger, Santa Barbara, 2010.

外部リンク

Map of Europe at the end of the Gorlice–Tarnów Offensive at omniatlas.com
A British observer's account of the Gorlice-Tarnow campaign, 1915
Grand Duke Nikolai on the Battle of Gorlice-Tarnow, 3 June 1915
German Press Statement on the Opening of the Battle of Gorlice-Tarnow, 2 May 1915
* WEEK OF SUCCESSES FOR GERMAN ARMS ON EASTERN AND WESTERN BATTLE FRONTS; Defeat in Galicia May Cause Collapse of Carpathian Campaign, NY Times May 9, 1915 (pdf file)

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