プジョー・203

プジョー203：戦後フランスを駆け抜けた小型車の傑作

プジョー203は、フランスの自動車メーカー、プジョーが1948年から1960年にかけて生産した小型乗用車です。1947年のパリサロンで発表され、翌年から生産が開始されました。戦後フランスにおけるプジョーの最初の乗用車として、その登場は大きな注目を集めました。

進歩的な技術と保守的な設計の融合

203のデザインは、1940年代前半のアメリカ車に見られる独立した前後フェンダーが特徴的でした。しかし、その中身は当時としては非常に近代的なものでした。最大の革新は、プジョー初となるモノコック構造の採用です。これにより、軽量化とボディ剛性の向上を実現しました。

さらに、軽合金シリンダーヘッドを持つ新設計エンジンも搭載。一見すると平凡なターンフローヘッドに見えますが、実際には吸排気管が対称になるよう内部が鋳造されており、バルブもダブルロッカーアームによるクロスフローヘッドという、高度な設計となっていました。これは吸排気効率の大幅な向上に繋がり、1948年当時の小型大衆車としては世界的に見ても先進的な技術でした。このエンジンの基本設計は、後の504にも受け継がれるほど優れたものでした。

一方、フロントサスペンションはリーフスプリング支持のウィッシュボーン式、ドライブトレインはトルクチューブ式、ファイナルギアはウォームギア式と、1920年代後半からのプジョー伝統の保守的な設計も踏襲していました。しかし、リアサスペンションにはコイルスプリングを採用するなど、旧型モデルと比べて近代化も図られています。

多様なバリエーションと市場での成功

当初は4ドアセダンと4ドアカブリオレの2種類がラインナップされました。その後、戦後の混乱が収束するにつれて、バリエーションはさらに拡大していきます。1950年にはホイールベースを延長した5ドアのワゴン、1951年には2ドアカブリオレ、1952年には2ドアクーペが追加されました。1952年にはエンジンの出力向上、1954年にはギアボックスのフルシンクロ化など、継続的な改良が行われました。

1955年に後継モデルの403が登場した後も、203は高い耐久性と低廉な維持費から人気を維持し続け、1960年まで生産が続けられました。リアシートのスペースがやや狭いという弱点もありましたが、同時代のフランス車に見られた個性的な（そして複雑な）設計とは異なり、プジョーらしい保守的で信頼性の高い、実用的な一台として市場で高い評価を獲得しました。

日本における203

1952年から1953年頃、朝鮮特需による外貨準備高の増加に伴い、日本の輸入制限が一時的に緩和されました。その時期に、203セダンは相当数が日本に輸入され、タクシーとして使用されることもありました。カーグラフィック誌1972年3月号の記事によると、1960年代半ば頃までは、東京の街で多くの203を見ることができたとされています。

また、2ドアカブリオレも個人輸入された例があり、現在も現存している個体も確認されています。

まとめ

プジョー203は、戦後の混乱期において、高い技術力と信頼性で成功を収めた小型乗用車でした。革新的なエンジン設計やモノコック構造を採用しながらも、プジョーらしい保守的な設計思想も持ち合わせていた点が、その魅力です。セダンからクーペ、カブリオレ、ワゴンまで、多様なボディバリエーションと、日本での活躍も、この車の歴史を語る上で重要な要素となっています。

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