プトレマイオス8世
プトレマイオス8世エウエルゲテス2世（紀元前182年頃 - 紀元前116年6月26日没）は、古代エジプトにおけるプトレマイオス朝のファラオです。彼の肥満体型から、「太鼓腹」を意味する「フュスコン」というあだ名で知られていました。紀元前171年から紀元前163年、紀元前145年から紀元前131年、そして紀元前127年から紀元前116年という断続的な期間にエジプトを統治し、その治世は権力闘争と激動に満ちていました。
彼の歴史における登場は、紀元前170年にセレウコス朝のアンティオコス4世エピファネスがエジプトに侵攻し、兄であるプトレマイオス6世フィロメトルを捕虜としたことから始まります。この非常事態に際し、アレクサンドリアの住民は兄に対抗する形で、当時若年だった彼を王として擁立しました。これにより、プトレマイオス8世としての治世が幕を開けます。
しかし、兄フィロメトルが解放されると事態は複雑化します。エジプトは実質的に二分され、フィロメトルはメンフィス以南の上エジプトを、エウエルゲテスはアレクサンドリアを中心とするナイル川デルタ地帯を支配し、二人の王が並立して対立するという異常な状態が生まれます。エジプトの民衆は弟である彼を支持しましたが、国際情勢においてはローマ元老院がアンティオコス4世の後ろ盾となる動きを見せました。一方、プトレマイオス6世は弟やローマとの連携を模索し、自身の権力を強化しようとします。これに対し、アンティオコス4世はメンフィスとアレクサンドリアへ軍を差し向け、プトレマイオス朝の首都を脅かしました。
この緊迫した状況に介入したのが、当時第三次マケドニア戦争での勝利を経て地中海世界で圧倒的な影響力を持つようになっていたローマでした。ローマはカイウス・ポピリウス・ラエナスを使者として派遣し、強大なローマの仲介に応じざるを得なくなったアンティオコス4世はエジプトから兵を引きます。ローマの調停の結果、エジプト本体の統治権はプトレマイオス6世に委ねられ、プトレマイオス8世は代わりにキレナイカ（現在のリビア東部）を獲得することになりました。この出来事以降、プトレマイオス朝エジプトはローマの直接的な影響下に置かれることになります。
プトレマイオス6世はその後約30年にわたり比較的安定した統治を続けますが、紀元前145年にシリアでの戦いに敗れ、戦死します。兄の死を受けて、彼の配下の傭兵たちが勝者側に流れる中、プトレマイオス8世は機敏に軍を率いてエジプトへ帰還しました。彼は兄の妃であり、自身の姉でもあるクレオパトラ2世とその息子プトレマイオス7世を保護下に置きます。そして、母子の安全を保障するという条件のもと、クレオパトラ2世と結婚することで権力を掌握しようとしました。さらに驚くべきことに、彼は同時にクレオパトラ2世の娘であり、後のクレオパトラ3世となる女性も娶っています。クレオパトラ3世との間に子が生まれると、正統な王位継承者であったプトレマイオス7世を殺害。ローマの支援も取り付け、エジプト全土の支配者としての地位を固めました。
しかし、母娘を同時に妃とするという異常な結婚形態や、度重なる外征とそれに伴う重税は、プトレマイオス8世の民衆からの支持を急速に失わせました。彼は不人気となり、ついには民衆の暴動が発生し、反乱軍が宮殿を取り囲む事態にまで発展します。さらに、宮廷内では彼とクレオパトラ2世、そしてクレオパトラ3世という三者の間で激しい権力争いが繰り広げられました。最終的に、クレオパトラ2世がアレクサンドリアで兵を起こしたため、彼は若いクレオパトラ3世を伴ってキプロスへ逃亡を余儀なくされます。エジプト本国は残されたクレオパトラ2世が統治することになりました。
キプロスへ逃れたプトレマイオス8世は、この屈辱的な状況を深く恨んだと伝えられています。彼は、自身とクレオパトラ2世との間に生まれた息子メンファイテスを殺害し、その遺体の一部をクレオパトラ2世の誕生日に合わせて送りつけたという凄惨な逸話が残されています。また、アレクサンドリアで彼に反抗したり、批判的な態度をとったりした知識人たちに対し、報復として大規模な追放や粛清を行いました。この弾圧の対象には、著名な文献学者サモトラケのアリスタルコスや、アテナイのアポロドロスといった学者たちが含まれていました。ある歴史家は、この時期に「あらゆる知識人が追放された。文献学者、哲学者、幾何学の教師、音楽家、画家、学校教師、医師、他にもいた。その結果として『学識がギリシア人と他の異邦人とにもたらされた』」と記しており、プトレマイオス8世による知識人弾圧が、皮肉にもヘレニズム世界の各地に学術を広める結果をもたらした可能性が示唆されています。
キプロスで体勢を立て直したプトレマイオス8世は、紀元前129年にエジプト本土への再侵攻を敢行します。彼はクレオパトラ2世の支配を覆し、再びエジプト全土の支配者として返り咲きました。その後、彼は紀元前116年にこの世を去ります。彼の遺言により、王位は妃であるクレオパトラ3世に継承されることになりました。波乱に満ちたフュスコンの治世はここに終わりを告げたのです。
彼の歴史における登場は、紀元前170年にセレウコス朝のアンティオコス4世エピファネスがエジプトに侵攻し、兄であるプトレマイオス6世フィロメトルを捕虜としたことから始まります。この非常事態に際し、アレクサンドリアの住民は兄に対抗する形で、当時若年だった彼を王として擁立しました。これにより、プトレマイオス8世としての治世が幕を開けます。
しかし、兄フィロメトルが解放されると事態は複雑化します。エジプトは実質的に二分され、フィロメトルはメンフィス以南の上エジプトを、エウエルゲテスはアレクサンドリアを中心とするナイル川デルタ地帯を支配し、二人の王が並立して対立するという異常な状態が生まれます。エジプトの民衆は弟である彼を支持しましたが、国際情勢においてはローマ元老院がアンティオコス4世の後ろ盾となる動きを見せました。一方、プトレマイオス6世は弟やローマとの連携を模索し、自身の権力を強化しようとします。これに対し、アンティオコス4世はメンフィスとアレクサンドリアへ軍を差し向け、プトレマイオス朝の首都を脅かしました。
この緊迫した状況に介入したのが、当時第三次マケドニア戦争での勝利を経て地中海世界で圧倒的な影響力を持つようになっていたローマでした。ローマはカイウス・ポピリウス・ラエナスを使者として派遣し、強大なローマの仲介に応じざるを得なくなったアンティオコス4世はエジプトから兵を引きます。ローマの調停の結果、エジプト本体の統治権はプトレマイオス6世に委ねられ、プトレマイオス8世は代わりにキレナイカ（現在のリビア東部）を獲得することになりました。この出来事以降、プトレマイオス朝エジプトはローマの直接的な影響下に置かれることになります。
プトレマイオス6世はその後約30年にわたり比較的安定した統治を続けますが、紀元前145年にシリアでの戦いに敗れ、戦死します。兄の死を受けて、彼の配下の傭兵たちが勝者側に流れる中、プトレマイオス8世は機敏に軍を率いてエジプトへ帰還しました。彼は兄の妃であり、自身の姉でもあるクレオパトラ2世とその息子プトレマイオス7世を保護下に置きます。そして、母子の安全を保障するという条件のもと、クレオパトラ2世と結婚することで権力を掌握しようとしました。さらに驚くべきことに、彼は同時にクレオパトラ2世の娘であり、後のクレオパトラ3世となる女性も娶っています。クレオパトラ3世との間に子が生まれると、正統な王位継承者であったプトレマイオス7世を殺害。ローマの支援も取り付け、エジプト全土の支配者としての地位を固めました。
しかし、母娘を同時に妃とするという異常な結婚形態や、度重なる外征とそれに伴う重税は、プトレマイオス8世の民衆からの支持を急速に失わせました。彼は不人気となり、ついには民衆の暴動が発生し、反乱軍が宮殿を取り囲む事態にまで発展します。さらに、宮廷内では彼とクレオパトラ2世、そしてクレオパトラ3世という三者の間で激しい権力争いが繰り広げられました。最終的に、クレオパトラ2世がアレクサンドリアで兵を起こしたため、彼は若いクレオパトラ3世を伴ってキプロスへ逃亡を余儀なくされます。エジプト本国は残されたクレオパトラ2世が統治することになりました。
キプロスへ逃れたプトレマイオス8世は、この屈辱的な状況を深く恨んだと伝えられています。彼は、自身とクレオパトラ2世との間に生まれた息子メンファイテスを殺害し、その遺体の一部をクレオパトラ2世の誕生日に合わせて送りつけたという凄惨な逸話が残されています。また、アレクサンドリアで彼に反抗したり、批判的な態度をとったりした知識人たちに対し、報復として大規模な追放や粛清を行いました。この弾圧の対象には、著名な文献学者サモトラケのアリスタルコスや、アテナイのアポロドロスといった学者たちが含まれていました。ある歴史家は、この時期に「あらゆる知識人が追放された。文献学者、哲学者、幾何学の教師、音楽家、画家、学校教師、医師、他にもいた。その結果として『学識がギリシア人と他の異邦人とにもたらされた』」と記しており、プトレマイオス8世による知識人弾圧が、皮肉にもヘレニズム世界の各地に学術を広める結果をもたらした可能性が示唆されています。
キプロスで体勢を立て直したプトレマイオス8世は、紀元前129年にエジプト本土への再侵攻を敢行します。彼はクレオパトラ2世の支配を覆し、再びエジプト全土の支配者として返り咲きました。その後、彼は紀元前116年にこの世を去ります。彼の遺言により、王位は妃であるクレオパトラ3世に継承されることになりました。波乱に満ちたフュスコンの治世はここに終わりを告げたのです。
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