プラサット・クラヴァン

プラサット・クラヴァンは、カンボジアのアンコール遺跡にある、5基の赤レンガの塔から成る10世紀の小寺院です。スラ・スランと呼ばれる人工池の南に位置し、その元々のサンスクリット名は不明ですが、現在のクメール語名「プラサット・クラヴァン」は「Artabotrys odoratissimus（モクレン目バンレイシ科の花）の寺院」を意味します。

この寺院は、西暦921年にヴィシュヌ神に捧げられたとされ、東向きに建てられ、小さな堀で囲まれています。外観は祠堂の古典的な輪郭と左右対称性が顕著であり、中央と南の塔は、層を縮小していくことで遠近法的な錯覚を生み出す上部構造を持っています。

内部は簡素な造りですが、赤みを帯びたレンガの壁に彫られたヴィシュヌやラクシュミーの大きな浮き彫りが特筆されます。この種の彫刻は、チャンパ寺院ではよく見られますが、クメールの遺跡では珍しいものです。

浮き彫り

中央祠堂の内壁には、ヴィシュヌの描写が3面あります。

ガルーダに乗るヴィシュヌ: 4本の腕を持つヴィシュヌが、自身の乗り物であるガルーダに乗り、蓮華、法螺貝、円盤、棍棒を持っています。
厳格な姿のヴィシュヌ: 8本の腕を持つヴィシュヌが、厳格な姿で立っています。周りには多くの信者がおり、足元にはワニまたはトカゲのようなものが描かれていますが、その意味は明確ではありません。
ヴァーマナの化身: 4本の腕を持つヴィシュヌが、大きく足を踏み出しています。これは、ヴィシュヌの化身である矮人ヴァーマナが、アスラのバリから世界を取り戻すために三歩を踏み出したという物語を表しています。

北端の祠堂の内壁には、ヴィシュヌの妻ラクシュミーの浮き彫りがあります。

トリシューラと円盤を持つラクシュミー: 女神はシヴァのトリシューラ（三叉戟）とヴィシュヌの円盤の両方を持っており、シヴァとヴィシュヌ両方の崇拝を超越する偉大な女神としての姿を示しています。
蓮華を持つラクシュミー: 蓮の花を持つ、より伝統的なラクシュミーの描写も見られます。

修復

1930年代にはアンリ・マルシャルとジョルジュ・トゥルーヴェによって草木が取り除かれ、1962年から1966年にかけてベルナール＝フィリップ・グロリエの指導の下で修復が行われました。修復の際には、「CA」（Conservation Angkor：アンコール遺跡保全）の記号が付けられた新しいレンガが加えられました。

プラサット・クラヴァンは、その独特な建築様式と浮き彫りによって、クメール美術における重要な遺跡の一つであり、訪れる人々を魅了し続けています。その静かで美しい佇まいは、古代クメール文明の深い歴史と文化を感じさせます。

参考文献
Freeman, Michael; Jacques, Claude (2006). Ancient Angkor. River Books. ISBN 974-8225-27-5
Glaize, Maurice (2003) [1993, First published 1944]. Tremmel, Nils. ed (PDF). The Monuments of the Angkor Group (based on the 4th ed.). http://www.theangkorguide.com/images/download/angkor-guide.pdf 2009年8月1日閲覧。

外部リンク
photos of details of Prasat Kravan, M.A.Sullivan on Bluffton University website

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