プランクトンネット

プランクトンネットは、水中に浮遊する微小な生物であるプランクトンを水から分離し、まとめて採取するために用いられる器具です。海洋学や淡水生態学の研究、あるいは環境調査において、プランクトン相を調べる上で欠かせない基本的なツールとなっています。

構造と材質

基本的な構造は、開口部から奥に向かって細くなる円錐形の袋状の網（ネット）と、その先端に付けられたプランクトンを集めるための容器（採水器またはコッドエンド）から構成されます。ネットの部分は主に化学繊維、特にナイロンを平織りにしたものが使用されます。網目のサイズ、すなわち「目合い」は、捕獲したいプランクトンの大きさによって選び分けられます。

種類と規格

プランクトンネットには、用途や目的とするプランクトンの種類に合わせて、様々なサイズや目合いのものが存在します。開口部の直径（口径）や網の長さ、そして網目の細かさが主要な仕様となります。研究や学術調査においては、結果の比較可能性を確保するため、標準化された規格品がよく用いられます。代表的な規格としては、以下のようなものがあります。

北太平洋標準ネット（NORPAC）: 口径45cm、網の長さ180cm、目合いはNGG54（0.315mm）
北原式定量ネット: 口径22.5cm、網の長さ80cm、目合いはNXX13（0.100mm）
北原式表層ネット: 口径30cm、網の長さ120cm、目合いはNXX13
丸川式中層ネット: 口径30cm、目合いはNXX13

これらの規格品は精度や耐久性に優れますが、個人的な簡単な採集や学校での自由研究などでは、身近な材料（例えばストッキングなど）を使って自作することも可能です。

使用方法と注意点

プランクトンネットを使用する際は、採取したいプランクトンの大きさに適した目合いのネットを選ぶことが非常に重要です。また、ネットを水中で曳く際の「曳き方」や「速度」も、採取効率や結果の質に大きく影響します。曳き方には、ネットを垂直に下ろして引き上げる「鉛直曳き」、斜めに曳く「傾斜曳き」、水面近くを水平に曳く「水平曳き」などがあります。

曳く速度については、遅すぎるとネット内に十分な水が流れ込まず、プランクトンを効率よく集められません。逆に、速すぎると、網にかかったプランクトンが強い水圧によって損傷したり、ネット自体が破損したりする恐れがあります。一般的な目安として、目合いNXX13のネットでは秒速0.5メートル程度、NGG54では秒速1メートル程度が推奨されます。なお、ストッキングなどで自作したネットは化学繊維製の規格品に比べて耐久性が低いため、船で高速に曳くのではなく、手でゆっくりと操作する採集に限られます。

採水器のコック

ネットの先端にある採水器には、集まったプランクトン標本を外部に取り出すためのコックがついています。このコックの開閉方向は、一般家庭のガス栓などとは逆になっているのが特徴です。具体的には、ネットの進行方向、つまり水の流れに対して平行にコックのレバーが位置すると閉まり、垂直に位置すると開く仕様になっています。これは、もし一般的なコックと同じように垂直で閉まる設計にすると、ネットを水中で曳航している間に水流の抵抗を受けてコックが自然に開いてしまい、せっかく集めたプランクトンが失われてしまうのを防ぐための工夫です。

採集範囲の限界

プランクトンネットは非常に有用なツールですが、採集できるプランクトンのサイズには限界があります。選んだネットの網目よりも大きな生物は入り込めませんが、逆に、網目よりずっと小さなプランクトン、特に数マイクロメートル（μm）以下の微小な生物は網目を通り抜けてしまい、十分に捕獲することができません。したがって、プランクトンネットでの採集は、ある特定の大きさの範囲に属するプランクトンに限定されるという点を理解しておく必要があります。ちなみに、それより小さな数マイクロメートル以下のプランクトン（ピコプランクトンと呼ばれる）が海洋生態系で重要な役割を担っていることは、1980年代以降の研究で次第に明らかになってきた事実です。

プランクトンネットは、その多様な規格と適切な使用法によって、水生生態系における微小生物の分布や動態を調査するための基礎的な手法として、現在も広く活用されています。

もう一度検索