プリピャチ

プリピャチ：チェルノブイリ原発事故によって消えた街

ウクライナ北部、ベラルーシ国境から程近い場所に位置するプリピャチ市は、1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故によって、その歴史に幕を閉じました。かつては、発電所の従業員とその家族が暮らす、活気あふれる計画都市でしたが、事故後、住民は強制的に避難し、現在ではゴーストタウンとして、その廃墟の姿を留めています。

計画都市としての誕生と発展

1970年、チェルノブイリ原子力発電所の建設に伴い、プリピャチ市は創設されました。厳重な警備体制が敷かれた閉鎖都市として、その存在は地図にも記載されていませんでした。発電所の稼働開始とともに人口は増加し、最盛期には約5万人もの人々が暮らしていました。

その人口の大半は発電所の従業員とその家族であり、独身者や子どもも多く、平均年齢は26歳と若年層が中心でした。市街地には、近代的な高層マンションや病院、文化会館、プール、スタジアム、公園など、ソ連有数の充実した社会インフラが整備され、活気に満ちた都市として発展を遂げていました。市章には原子モデルが描かれ、市のモットーも原子力に因んだものでした。

チェルノブイリ原発事故と避難

しかし、この平穏な生活は1986年4月26日、午前1時24分に発生したチェルノブイリ原発事故によって、一変します。事故直後は、その詳細を把握していたのはごく一部の幹部と、原発で勤務していた従業員のみでした。しかし、炎上する原発の姿は、すぐに市民にも知れ渡ります。翌27日正午、ラジオ放送と拡声器を通じて事故発生が伝えられ、住民は身分証明書と3日分の食料、貴重品を持って避難を指示されました。

14時、避難が始まり、キーウから集められたバスや鉄道、船舶を使って、住民たちはプリピャチを後にしました。ほとんどの住民は3日後には戻れると信じていましたが、その後、一時的な帰宅を許されるまで数ヶ月を要しました。多くの住民はキーウ州のポリースキ地区で一時的に生活しました。そして、事故の対応に当たった技術者や消防士、医師、警官などを除く全ての住民がプリピャチを離れ、街は完全に無人となりました。

事故後のプリピャチ

事故後、キーウ州各地に避難民のための村が作られ、原発従業員にはキーウへの移住が優先的に許可されました。さらに、原発から東に50kmの場所に計画都市スラブチッチが建設され、プリピャチの全住民は1988年までに移住しました。チェルノブイリ町は少数の住民が残りましたが、プリピャチは発電所に近かったこともあり完全に無人となりました。郵便番号も廃止され、現在では割り当てられていません。

チェルノブイリ原発は2000年12月に完全に停止し、現在も廃炉作業が進められていますが、作業員は50km離れたスラブチッチから通勤しています。

ゴーストタウンとしての現在

街はそのまま放棄されたため、ソ連後期の建築物がそのまま残されたゴーストタウンとなっています。その様子は、事故当時の生活、そしてソ連時代の社会状況を垣間見れる貴重な痕跡となっています。しかし、高レベルの放射性物質が残る危険な場所であるため、立ち入りは制限されており、観光にはガイガーカウンターと正規のツアー参加が必須です。

教育、交通、スポーツ

プリピャチには、75の小学校、19の中学校、7の職業学校がありました。これらは全て閉鎖されましたが、校舎内には当時の備品や教材などがそのまま残されています。市内には167台のバスによる交通網と港湾施設がありましたが、これらも全て廃止され、現在は残骸として残っています。また、地元のサッカーチーム「ストロイテル・プリピャチ」は、事故後「ストロイテル・スラブチッチ」と改名し、1988年まで活動しました。

プリピャチは、かつての栄華が失われた悲劇的な都市でありながら、ソ連時代の歴史を伝える重要な場所として、現在も注目を集めています。 その廃墟と化した街並みは、現代社会への警鐘として、未来への教訓を私たちに与え続けています。

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