プリモルスカ地方

プリモルスカ地方は、スロベニアの西端に位置し、アドリア海に面した海岸線から、内陸部のジュリア・アルプス山脈まで広がる多様な地形を持つ地域です。この地方は、スロベニア語で「沿海地方」を意味し、ゴリシュカ地方とイストラ地方という二つの主要な地域を含みます。

地理的には、イタリアとクロアチアに隣接しており、スロベニアで唯一の海岸線を有しています。そのため、古くから多様な文化が交錯し、教育や行政の現場ではスロベニア語とイタリア語が併用される多言語地域となっています。第二次世界大戦後には、約20万人のスロベニア人と3万人のイタリア人がこの地に居住しており、現在でも沿岸部を中心にイタリア人のコミュニティが存在します。

歴史を振り返ると、プリモルスカ地方は、かつてオーストリア＝ハンガリー帝国のキュステンラントの一部であり、トリエステ周辺と島嶼部を除く地域でした。第一次世界大戦後には、ラパッロ条約によってイタリアに割譲されましたが、第二次世界大戦後には、ユーゴスラビアの一部であったスロベニアに編入されました。このような歴史的背景から、プリモルスカ地方は、複雑な文化と歴史を背景に持つ地域となっています。

経済面では、リュブリャナに次ぐスロベニアで最も繁栄した地域として知られています。伝統的な産業としては、漁業、製塩業、そして農業、特にブドウ栽培が盛んです。オリーブ、ブドウ、果物、野菜などの生産が盛んで、近年は果物とブドウの生産が増加傾向にあります。また、観光業と港湾運送業も重要な産業であり、特にイタリアとの国境に近いため、観光業、飲食店、カジノなどが盛んです。主要な観光都市としては、美しい海岸線を誇るピランとポルトロシュが挙げられます。さらに、リピッツァナーという馬の原産地であるリピツァ村や、ユネスコ世界遺産にも登録されているシュコツィアン洞窟群など、多様な観光資源を有しています。

プリモルスカ地方は、その地理的特性、歴史、経済、文化において、スロベニアの中でも特に多様で豊かな地域の一つです。参考文献として、柴宜弘、アンドレイ・ベケシュ、山崎信一編著『スロヴェニアを知るための60章』明石書店（2017年）や、Dolinar, France M; Gabrič, Aleš; Golec, Boris; Kosi, Miha; et al (2011). Slovenski zgodovinski atlas. Nova revija. などが挙げられます。

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