プリント・ウィキペディア

プリント・ウィキペディア - アートプロジェクトの概要

プリント・ウィキペディア（Print Wikipedia）は、アメリカのアーティスト、マイケル・マンディバーグによって展開されたユニークなアートプロジェクトです。このプロジェクトは、英語版ウィキペディアの記事を印刷し、書籍として製本するという試みを中心に構築されています。2015年の夏にニューヨークで行われた展示会では、印刷された書籍が観客に披露され、大きな注目を集めました。

プロジェクトの背景と動機

マンディバーグはこのプロジェクトを2009年に立ち上げました。その理由は、ウィキペディアの膨大な情報量がどの程度の規模であるかを具体的に理解したいという思いからでした。ウィキペディアは、現代のビッグデータの一形態として、FacebookやNSAなどと比較することもできるほどの大きさを持っていますが、人間が認識できる範囲内に収まっています。この点について、ウィキメディア財団の業務執行取締役キャサリン・マーは、「知識へのジェスチャー」と表現しています。

プロジェクトの実現に向けた取り組み

マンディバーグは、このプロジェクトの実現にあたり、ウィキメディア財団からの協力や、自費出版会社ルルエンタープライズからの資金を得ました。また、プロジェクトのためにアシスタントを雇ってプログラムの開発を行い、ウィキペディアの内容を自動的に印刷用データに変換するシステムを確立しました。この作業には約3年がかかり、データをサーバにアップロードするのには24日と3時間18分を要しました。

展示会の概要

2015年6月18日から、ニューヨークのデニー・ギャラリーで開催された展示会「From Aaaaa! to ZZZap!」では、マンディバーグが製本したウィキペディアの書籍が紹介されました。対象となったのは2015年4月7日時点の英語版ウィキペディアで、全106巻の製本が行われました。1巻あたり700ページの内容が含まれ、これは英語版ウィキペディア全体の書籍化に必要な7,473巻のうちの一部にすぎません。印刷物には記事の本文が掲載されているものの、画像や脚注は省かれていました。

展示の壁面には、最初の1,980巻の背表紙が展示され、当時の英語版ウィキペディアの全投稿者約750万人の名前を記載した補足資料（36巻）と目次（91巻）も印刷されて並べられました。この展示は2015年7月12日に終了しました。

さらなる展示と販売

その後、2016年の初めにはアリゾナ州立大学テンピキャンパスのチャールズ・トランブル・ヘイデン図書館でも、書籍版ウィキペディアの展示が行われました。本来の百科事典が陳列されるコーナーと隣接して行われ、来訪者に新たな視覚体験を提供しました。マンディバーグが展示したのは106巻のみですが、印刷用のデータは全7,473巻分が作成されており、ルルエンタープライズの販売サイトlulu.comで購入可能です。1巻あたりの価格は80ドル、全巻のセットは500,000ドルです。

影響と他のプロジェクト

プリント・ウィキペディアは、他の言語版ウィキペディアにおける同様のアートプロジェクトのきっかけともなりました。例えば、2016年にはドイツ語版とオランダ語版ウィキペディアでも同様の試みが行われています。また、このプロジェクトを受けて虚構新聞が謝罪した経緯もあります。同紙は、2012年に日本語版ウィキペディアが書籍化されると報じたものの、実現したため誤情報となってしまったのです。

プリント・ウィキペディアは単なる書籍の製作に留まらず、デジタル時代の知識のあり方に対する重要な問いかけを含んでいます。

もう一度検索