プルアップ抵抗

プルアップ抵抗とは

プルアップ抵抗とは、電子回路において、信号入力端子が開放状態やそれに近い状態になった際に、電位が不安定になるのを防ぐための抵抗です。具体的には、入力端子と電源電圧（Vdd）などの高電位電圧源との間に接続され、微小な電流を流し続けることで、入力端子の電位を強制的にHighレベルに保ちます。

反対に、入力端子をLowレベルに保つために使用される抵抗はプルダウン抵抗と呼ばれます。

概要

ディジタル論理回路では、入力端子にHighまたはLowのいずれかの電圧が印加されることが前提です。しかし、入力端子が開放状態（浮いている状態）にあると、周囲の静電気や電磁誘導の影響を受けて、電位が不安定になり、HighともLowともみなせない中間の電圧状態になることがあります。この状態は回路の誤動作を引き起こし、最悪の場合、電気的な破損につながる可能性があります。

このような問題を回避するために、プルアップ抵抗やプルダウン抵抗が用いられます。

プルアップ抵抗は、入力が「浮いている」ときに、その信号線を強制的にHigh状態にする役割を持ちます。そのため、Low信号の入力を妨げないように、ある程度大きい抵抗値が選ばれます。

例えば、外部からの入力用のスイッチの場合、通常はスイッチがONでLow、OFFで切断となるため、プルアップ抵抗を接続することで、OFF時にHighレベルを保つことができます。

また、オープンコレクタの出力などを複数接続する際に、共通線をプルアップする用途にも用いられます。

プルアップ/プルダウン抵抗値の決定

プルアップ/プルダウン抵抗の抵抗値は、以下の要素を考慮して決定します。

1. 標準仕様/データシート: まず、回路の標準仕様やデータシートに推奨値が記載されている場合は、それを参照します。
2. 十分な電流: 開放時の不定動作を防ぐために、ある程度の電流を流す必要があります。ただし、抵抗値が大きすぎると、その効果が薄れてしまいます。
3. 入力信号への影響: 通常の入力信号を阻害しないように、電流を流しすぎないようにする必要があります。抵抗値が小さすぎると、余計な電流が流れてしまいます。
4. 消費電力: 電池駆動の機器などでは、消費電力を抑えるために、抵抗値を慎重に選定する必要があります。

CMOS回路のように対称的な回路方式では、プルアップとプルダウンは理論上対等ですが、非対称な回路方式では、その特性を考慮して使い分ける必要があります。

プルダウン抵抗

プルダウン抵抗は、プルアップ抵抗とは逆に、入力端子が開放状態のときに、電位をLowレベルに保つために使用します。CMOS回路では、プルアップとプルダウンはほぼ同等に扱えますが、TTL回路のように非対称な回路では、プルアップが好まれる傾向があります。

実例

• - バイポーラ論理ファミリでは、5V駆動で1kΩ〜4.7kΩ程度のプルアップ抵抗が使用されます。
• - CMOSやMOS論理では、入力インピーダンスが高いため、220kΩ〜1MΩ程度の大きな抵抗値が使用され、消費電力を抑えることができます。
• - TTLのICからリレーを制御する際には、プルアップ抵抗によって安定化された制御電圧を印加します。
• - マイクロコントローラには、入力端子ごとにプログラマブルなプルアップ抵抗が内蔵されていることが多く、外部部品を削減できます。

プルアップ抵抗の欠点

プルアップ抵抗の欠点として、以下の点が挙げられます。

• - 消費電力が増加する。
• - 能動電流源に比べて速度が遅くなる。
• - 過渡電流の影響を受けやすい場合がある。

I2C

I2Cでは、クロック信号線(SCL)とデータ信号線(SDA)にプルアップ抵抗が接続されており、機器側の端子はオープンコレクタ相当で、信号線をLowにすることができます。つまり、何も接続されていない状態では、すべての信号線はHighになります。

まとめ

プルアップ抵抗は、電子回路において非常に重要な役割を担っています。適切な抵抗値を選ぶことで、回路の安定動作と誤動作防止に大きく貢献します。

参考資料

• - Paul Horowitz and Winfield Hill, "The Art of Electronics 2nd Edition", Cambridge University Press, Cambridge, England, 1989 ISBN 0-521-37095-7

関連項目

• - デジタル回路
• - 論理回路

外部リンク

• - Really basic introduction at Encoder

もう一度検索