プルタルコ・エリアス・カリェス

プルタルコ・エリアス・カリェス：メキシコ革命の指導者から影の支配者へ

プルタルコ・エリアス・カリェスは、1877年、メキシコ、ソノラ州グアイマスに生まれました。裕福な家庭に生まれたものの、幼くして母を亡くし、育ての父から「カリェス」という姓を受け継ぎました。法律家を志した父は彼の育児に携わらず、叔母夫婦に育てられた彼は、教育、農業、実業など幅広い経験を積みます。

メキシコ革命勃発後、カリェスはフランシスコ・マデロを支持。マデロ政権崩壊後も反政府運動を続け、ベヌスティアーノ・カランサの陣営に加わり、パンチョ・ビリャと激しく戦いました。1915年にはソノラ州知事に就任し、最低賃金の導入、教育改革、カトリック教会の弾圧など、多くの改革政策を実行。一方で、ヤキ族の反乱鎮圧など軍事面でも手腕を発揮しました。

1919年にはカランサ政権で大臣を務めましたが、短期間で辞任。アルバロ・オブレゴンを支持し、カランサ打倒を訴える「アグア・プリエタ綱領」を発表します。カランサ暗殺後、オブレゴン政権下で国防大臣、内務大臣を歴任し、オブレゴン政権への反乱を鎮圧するなど、その地位を固めました。

大統領への道と改革

1924年、カリェスは大統領選挙に勝利し、メキシコ史上初めてラジオを使った選挙運動を行いました。大統領就任後、彼は憲法27条に基づき、外国人の土地所有を制限し、石油産業への規制強化を行い、アメリカ合衆国と対立を招きました。一方で、公教育の充実、中央銀行設立、軍隊の専門化など、数々の内政改革にも着手し、男女平等のための民法改正も実施しました。

土地改革においても、オブレゴン政権の2倍以上の土地を農民に分配しましたが、土地だけでなく、農業機械や灌漑施設などの支援が必要だと考えました。しかし、彼の強硬な反カトリック姿勢は、1926年から1929年にかけての「クリステロ戦争」を引き起こし、多くの犠牲者を出しました。この戦争は、メキシコ憲法の反カトリック主義的な条文の実現をカリェスが目指した結果でした。

カリェス自身はスピリティズムを信仰していたとされ、彼の政権にはフリーメイソンが多く参加していたとも言われています。フリーメイソンは反聖職者運動において重要な役割を果たしました。カリェスは、大統領の再選を認める憲法改正を行い、オブレゴンの再選を画策しましたが、オブレゴンは暗殺され、メキシコは再び内戦の危機に瀕しました。

影の支配者としてのカリェス：マクシマート

オブレゴンの暗殺後、カリェスは国民革命党（後の制度的革命党）を設立し、1929年から1935年にかけて、傀儡大統領を次々と立ててメキシコを支配しました。この時代は「マクシマート」と呼ばれ、カリェスは「ヘフェ・マクシモ」（最高司令官）と呼ばれ、絶対的な権力を握っていました。

しかし、1935年、カリェスが後継大統領であるラサロ・カルデナスの左派的な政策を批判すると、カルデナスを支持する大規模な労働運動が起こりました。カリェスはアメリカ合衆国に亡命しますが、1944年に帰国。1945年にメキシコシティで死去しました。

カリェスはメキシコ革命の重要な指導者であり、大統領として多くの改革を行いました。しかし、反カトリック政策や、大統領退任後の影の支配者としての行為は、多くの議論を呼び続けています。彼の功績と負の遺産は、現代メキシコの歴史においても重要な検討課題となっています。彼の生涯は、革命の理想と権力闘争の複雑さを物語る、ドラマチックなものでした。

参考文献

ユルゲン・ブーヘナウ（Jürgen Buchenau）の研究
マシュー・バトラー（Matthew Butler）の研究
* グレアム・グリーンの『掟なき道』『権力と栄光』

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