プレスライダー

概要

プレスライダーとは、新聞社やテレビ局といった報道機関からの依頼を受け、記事原稿や写真フィルム、ビデオテープなどの編集作業前の素材をオートバイを用いて迅速に輸送することを主な業務とする専門職です。

役割と歴史的背景

日刊紙を始めとする報道機関では、毎日厳格な締切時間が設けられています。プレスライダーが運ぶ情報は、その日の紙面作成や番組制作に直結する極めて重要な素材でした。そのため、輸送の遅延は、特ダネを逃すことや報道機会を失うことといった「落ちる」と呼ばれる報道機関にとっての失態に繋がりかねず、その職務には大きな責任が伴いました。時には、元旦の朝刊に間に合わせるため、日付が変わってから撮影された初詣の写真ネガを、わずか数時間後の印刷所へ迅速に運ぶといった、高度な時間精度と輸送能力が求められる困難な任務も存在しました。

輸送物資と業務内容

主に運搬されたのは、新聞や雑誌の編集に使う記事原稿（人気連載漫画の原稿を含む）、写真撮影に使用されたネガフィルムやポジフィルム、テレビ番組の収録に使われたビデオテープなど、多岐にわたる「編集前の生の情報素材」でした。漫画家の自宅から新聞社へ原稿を届けるといった個別の依頼にも対応しました。

他の職業との違い

プレスライダーの業務は、完成した新聞や雑誌を購読者に配達する新聞配達員や、様々な荷物を運送するバイク便とは明確に区別されます。プレスライダーが専門としていたのは、あくまで「編集前の報道素材」を「報道機関間」で輸送することであり、そのスピードと確実性が報道活動の生命線でした。

使用されたオートバイ

プレスライダーは、依頼を受けた報道機関の社旗をオートバイに掲げて走行することが一般的でした。これは、取材車両であることを示し、守衛による検問などを円滑に通過するための目印としての役割も兼ねていました。時には、他社の社旗を掲げたプレスライダー同士の間で、迅速な輸送を巡る激しい競争が繰り広げられることもあったと言われています。使用されるオートバイは、ライダー自身の所有車である場合もあれば、報道機関が社用車として用意する場合もありました。特に高速道路での移動を想定し、かつてはCB500FOURのような大型二輪が好まれましたが、都市部での走行に適応するため、狭い道をすり抜けるためのハンドル調整や、社旗を取り付けるための旗棒、そして原稿などを収納するタンクバッグといった独自のカスタムが施されていました。1980年代に入ると、都市部での取り回しの良さや中型自動二輪車の性能向上、さらに中型免許を持つ新規ライダーの増加に伴い、XJ400、GSX400F、CBX400Fといった中型車種への移行が進みました。

技術革新による変化

かつて、報道に関するテキストや画像、映像といった情報は、物理的な原稿やフィルム、テープといった現物としてしか伝送手段がありませんでした。そのため、オートバイはヘリコプターに比べて手軽で、自動車や鉄道よりも迅速な輸送手段として、プレスライダーの業務に不可欠なものでした。しかし、ファックスやマイクロウェーブ中継などの技術が登場し、さらにインターネットが普及して情報の大部分が電子データとして瞬時に送受信できるようになるにつれて、物理的な現物を運ぶ必要性は劇的に減少しました。これにより、プレスライダーという職業の形態は大きく変化し、かつてのような最前線で活躍する機会は少なくなっています。

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