プレゼンス情報

プレゼンス情報とは

プレゼンス情報とは、ネットワーク上のコミュニケーションにおいて、相手の現在の状況を示す情報です。具体的には、相手がコミュニケーションを受け入れられる状態にあるかどうか、また、コミュニケーションを行う意欲があるかどうかを伝えます。この情報は、在席情報やフリー・ビジー情報と呼ばれることもあります。

ユーザーのクライアントは、自身のプレゼンス状態をプレゼンスサービスに提供し、その情報は他のユーザーに伝達されます。これにより、相手が「チャット可能」、「取り込み中」、「離席中」など、どのような状態にあるのかを把握することができます。

プレゼンス状態

ユーザーは、自身の現在のコミュニケーション状態を示すために、プレゼンス状態を公開します。この状態は、連絡を取りたい他のユーザーに対して、コミュニケーションの可否や意欲を伝えるものです。最も一般的な例として、インスタントメッセージングクライアントにおけるユーザーの状態アイコン表示が挙げられます。状態アイコンは、画像や記号、色によって表現され、ユーザー名と状態を示すテキストが並んで表示されます。

ユーザーのプレゼンス状態として、一般的に「チャット可能」「取り込み中」「離席中」「応答不可」「外出中」などが実装されていますが、これらの種類や数はインスタントメッセンジャーによって異なります。また、ユーザーの気分や場所、フリーテキストなどが追加のプレゼンス属性として提供される場合もあります。

プレゼンス状態は、電話における「オンフック」「オフフック」の状態と似ていると表現されることがありますが、これは厳密には不正確です。電話の場合は、発信者が接続を試みた時点でのネットワーク状況を反映しますが、インスタントメッセージの場合は、会話が開始される前の状態を示します。つまり、発信者は受信者の状態を知ることができますが、受信者の状態を占有することはありません。

MPOPとプレゼンス状態の推測

プレゼンス情報は、複数の通信チャネル間で共有されることが注目されています。複数のデバイスの状態を組み合わせて、ユーザーのプレゼンス状態を統合的に表示する概念は、Multiple Points of Presence（MPOP）と呼ばれます。MPOPは、ユーザーの行動から推測される情報を加えることで、より強力になります。

例えば、パソコンでインスタントメッセンジャーを使用している際に、キーボード操作が一定時間ない場合は、自動的に「退席中」と表示されることがあります。また、携帯電話の電源状態、パソコンへのログイン状態、カレンダーの予定などから、プレゼンス状態を推測することも可能です。例えば、予定が不在で携帯電話の電源が入っている場合は、「ローミング」状態であると見なすことができます。

MPOPを利用することで、デバイス間で着信メッセージを自動的に転送することも可能です。例えば、「不在」の場合は携帯電話に転送、「応答不可」の場合はボイスメールに送信するといった設定ができます。

XMPPでは、各クライアントに「リソース」と優先順位を割り当てることで、MPOPを実現しています。メッセージは通常、最も優先度の高いリソースに送信されます。また、特定の「リソース」を指定してメッセージを送信することも可能です。

プライバシーの問題

プレゼンス情報は機密性の高い情報であるため、公開範囲が制限される場合があります。例えば、従業員は、勤務時間中のみ同僚に詳細なプレゼンス情報を表示させたい場合があります。このような状況に対応するため、「ブロック」機能が提供され、特定のユーザーにはプレゼンス状態を非公開にすることができます。

市販品での実装

プレゼンス情報、特にMPOPは、複数の電子デバイスとプレゼンスサービスの連携が必要です。現在、SPOP（シングルポイントオブプレゼンス）を備えたクローズドシステムが一般的ですが、MPOPを普遍的に利用するためには、複数のデバイスが相互に通信できるだけでなく、他の相互運用可能なプレゼンスサービスやクライアントとの連携も必要となります。

携帯電話ネットワークは、モバイルユーザーのプレゼンス情報サービスの管理とアクセスをサポートしています。

職場では、プライベートメッセージングサーバーが、企業やチーム内でMPOPの可能性を提供しています。

ビジネスコミュニティにおける用途

プレゼンス情報は、ビジネス環境でのコミュニケーションを円滑にするためのツールとして進化しています。プレゼンス情報を利用することで、企業ネットワーク内で誰が対応可能かを確認できるため、会議や電話会議をより柔軟に設定できます。これにより、正確なコミュニケーションが可能になり、電話のやり取りやメールの非効率性を解消できます。

例えば、GPSを備えた運転手のプレゼンス情報を追跡し、交通情報などを伝えることで、時間とコストの節約に繋がります。

IDCの調査によると、従業員はインスタントメッセージングを「同僚の隣に座って直接質問し、すぐに答えが返ってくるように感じられる」と述べています。この現象は「プレゼンス効果」と呼ばれ、従来は実際に会うことでしか得られなかった「流れ」を生み出すと考えられています。

プレゼンス情報は、プライバシーに関わる問題も引き起こす可能性があります。従業員が休暇中であっても、ネットワークに接続していると追跡される可能性があるため、企業がどこまで従業員との接続を維持すべきかという点が課題となります。

プレゼンス標準化の取り組み

プレゼンス関連プロトコルの標準化に向けた取り組みは、複数のワーキンググループによって進められています。

1999年、IETF内にIMPPワーキンググループが設立され、プレゼンスとインスタントメッセージングサービスのプロトコルとデータ形式を開発しました。しかし、単一のプロトコルの合意には至らず、プレゼンスサービス間のゲートウェイを容易にするために、プレゼンスの共通セマンティクスを定義するCPPを発行しました。

2001年、IETF内にSIMPLEワーキンググループが設立され、SIPを介したプレゼンスおよびインスタントメッセージングアプリケーションのCPP準拠標準を開発しました。SIMPLEは、プレゼンス情報のパブリッシュとサブスクライブのメカニズム、インスタントメッセージ送信のためのSIPプロトコルの拡張機能などを規定しています。

2001年末には、ノキア、モトローラ、エリクソンが、モバイルインスタントメッセージングおよびプレゼンスサービス（IMPS）のユニバーサル仕様を定義するために、ワイヤレスビレッジ（WV）イニシアチブを結成しました。その後、Wireless VillageはOMAに統合され、XMLベースのOMA Instant Messaging and Presence Service（IMPS）がリリースされました。IMPSは、プレゼンス情報を表現するためのシステムアーキテクチャ、構文、セマンティクスを定義し、プレゼンス、IM、グループ、共有コンテンツの4つの主要機能のプロトコルセットを提供しています。

XMLベースのXMPPは、XMPP Standards Foundationによって設計され、現在も維持されています。このプロトコルは、GoogleトークやFacebook Messengerなどの商用実装で使用されています。2004年10月、IETFのXMPPワーキンググループは、XMPPの中核プロトコルを標準化するために、RFC 3920、RFC 3921、RFC 3922、RFC 3923といった文書を公開しました。

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