プログレスM-06M

プログレスM-06Mは、ロシアが運用する無人宇宙補給船の一つです。2010年6月、国際宇宙ステーション（ISS）への物資輸送ミッションのために打ち上げられました。NASAではこの機体をProgress 38Pという名称で識別しており、ISSへのプログレス補給船のドッキングとしては通算38機目に当たります。

打ち上げ

本機体の打ち上げにはソユーズ-Uロケットが使用されました。このロケットはサマーラにあるTsSKBプログレスで製造され、2010年3月にはカザフスタンのバイコヌール宇宙基地へ輸送されました。プログレスM-06Mは、協定世界時（UTC）2010年 6月30日15時35分に、バイコヌール宇宙基地の1/5発射台から宇宙へと旅立ちました。搭載された貨物には、約870kgの燃料、約50kgの酸素と空気、約100kgの水、そして約1210kgの物品、スペアパーツ、実験装置類が含まれていました。ロケットはプログレスを高度193キロメートルから241キロメートルの初期軌道に投入。その後、2日以上にわたる精密な軌道修正噴射によって、予定通り7月2日にはISSのズヴェズダモジュールの後方（Aft）ポートへのドッキングを目指す位置へと誘導されました。

最初のドッキング試行とトラブル

2010年7月2日、プログレスM-06MはISSへの接近を開始しましたが、重要な通信障害が発生し、ドッキング作業は中断されました。機体はISSから安全な距離を維持してフライバイすることになりました。モスクワのミッションコントロールからの公式発表によれば、ISSからおよそ2キロメートルまで接近した時点では順調に進んでいましたが、その後にプログレスM-06Mの自動ランデブーシステム「クルス」が、それ以上の接近操作を停止するコマンドを発したとされています。また、ドッキング予定時刻の約25分前には、ISSとプログレスM-06Mの間でのテレメトリ（遠隔データ通信）が途絶しました。NASAからは、過去の事例として、手動操縦システム「TORU」の映像送信機がTORU手動システムと干渉し、機体とISS間のTORUコマンドリンクが失われてドッキングが中断されたケースに類似している可能性が指摘されました。しかし、その後のロシアのフライトコントロールチームの確認では、クルスシステム自体はドッキング試行中止時も正常に機能しており、システム障害ではなかったことが判明しました。RSCエネルギアの事故調査委員会による詳細な調査の結果、ドッキング失敗は宇宙機のバックアップ手動近接制御ループにおいて「動作モード中止」コマンドが予期せず発生したことが原因であると結論付けられました。このコマンドが、TORUシステムで使用されるメートル波信号回線や、ズヴェズダモジュールのTORUパネルの運用ボタン操作に干渉を引き起こしたとのことです。

ドッキング成功

最初の試みが中断された後、状況の詳細な分析が行われ、2度目のドッキング試みが7月4日に計画されました。この2度目の試みは成功裏に終わりました。2010年7月4日16時17分（UTC）、クルス自動システムによる完全自動飛行によって、プログレスM-06MはISSのズヴェズダモジュールの後方ポートに無事ドッキングしました。当時ISSに滞在していた第24次長期滞在クルーは到着を監視しましたが、予防的な措置として、この2度目の試みではTORUシステムは使用されませんでした。ドッキングはロシア、カザフスタン、中国、モンゴルの国境付近上空で行われました。ドッキング完了後、機体とISS間のラッチは数分で閉じられ、およそ19時30分頃にはクルーがハッチを開けてプログレス内部へ入室できる状態となりました。

ISSの軌道修正（リブースト）

プログレスM-06Mは、ISSの軌道制御にも貢献しました。ソユーズTMA-18宇宙船の地球への帰還（着陸）準備と、後続のプログレスM-07M補給船のドッキングに最適な軌道高度を確保するため、M-06Mの姿勢制御スラスタを用いたISSの軌道修正（リブースト）が2010年7月16日に実施されました。ステーションのロシア区画にある中央コンピューターからのコマンドにより、M-06Mのエンジンは協定世界時6時42分30秒に噴射を開始しました。約1065秒間にわたる噴射により、ISSの軌道高度は約3.7キロメートル上昇し、平均355.2キロメートルの軌道に調整されました。

運用終了と廃棄

補給ミッションを完了し、役目を終えたプログレスM-06Mには、ISSで発生した不要な廃棄品が積み込まれました。そして、協定世界時2010年8月31日11時25分、M-06MはISSから分離しました。当初、分離コマンドは11時19分に発行され、3分後に分離する予定でしたが、実際のコマンド発行が11時22分となったため、計画より若干遅れる形となりました。ISSからの分離後、プログレスM-06Mは直ちに大気圏へ再突入せず、軌道にしばらく留まり、「レーダープログレス」と呼ばれる地球観測実験に用いられました。実験終了後、2010年 9月6日に太平洋上空で軌道離脱マヌーバを行い、大気圏に再突入しました。燃え尽きずに残った構造物は、予測された落下地点である「スペースクラフト・セメタリー」（南太平洋の人工衛星墓場）へ落下したとされています。軌道離脱のための逆噴射はモスクワ時間16時13分50秒に開始され、その残骸はモスクワ時間16時53分頃、南緯42度07分、西経138度25分の地点に落下したと推定されています。

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