プロシア四重奏曲

プロシア四重奏曲 作品50

プロシア四重奏曲 作品50（ドイツ語: Preussische Quartette Op.50）は、オーストリアを代表する古典派の作曲家、フランツ・ヨーゼフ・ハイドン（Franz Joseph Haydn, 1732-1809）によって1787年に作曲された、全6曲から構成される弦楽四重奏曲の作品集です。作品番号は50が付与されています。

この作品群が「プロシア四重奏曲」という通称で広く親しまれているのは、当時のプロイセン王、フリードリヒ・ヴィルヘルム2世（Friedrich Wilhelm II., 1744-1797）に献呈されたことに由来します。ハイドンはこの作品群を国王へ敬意を表す形で捧げたとされています。

作品は作曲が完了したのと同じ年、1787年の12月に、オーストリア帝国の首都ウィーンにあった有力な音楽出版社であるアルタリア社（Artaria & Co.）から初めて出版されました。編成は、ヴァイオリン2部、ヴィオラ1部、チェロ1部という、弦楽四重奏曲において確立された標準的な4つの楽器で構成されています。

作品集を構成する各曲

作品50を構成する6曲は、それぞれ独立した魅力を持っています。各曲には作品番号に基づく通し番号（第1番から第6番）と、アントニー・ファン・ホーボーケンによるハイドン作品目録の番号（Hob.III）が付与されています。

第1番 変ロ長調 作品50-1, Hob.III:44
第2番 ハ長調 作品50-2, Hob.III:45
第3番 変ホ長調 作品50-3, Hob.III:46
第4番 嬰ヘ短調 作品50-4, Hob.III:47
第5番 ヘ長調 作品50-5, Hob.III:48
第6番 ニ長調 作品50-6, Hob.III:49

これらのうち、特に第5番と第6番には固有の愛称が付されています。

第5番 ヘ長調 Hob.III:48 『夢』

この曲は『夢』という愛称で呼ばれることがありますが、これは他の有名なハイドンの弦楽四重奏曲の愛称ほど一般的ではありません。その由来は、この曲の第2楽章の楽譜に「Ein Traum」（ドイツ語で「一つの夢」を意味する）という言葉が書き込まれていることによるとされています。この言葉が楽章の雰囲気を示唆している可能性もありますが、なぜ書き込まれたのか、その正確な経緯については明確ではありません。

第6番 ニ長調 Hob.III:49 『蛙』

この曲は『蛙』四重奏曲（ドイツ語: Froschquartett）という愛称で非常によく知られています。この愛称は、作品の終楽章にあたる第4楽章の冒頭部分に現れる特徴的な音形に由来します。この部分の主題に見られる跳躍を伴うスタッカートの音形が、あたかも蛙の鳴き声を連想させるかのような響きを持っていることから、この名が付けられました。

プロシア四重奏曲 作品50は、ハイドンが弦楽四重奏というジャンルにおいて形式や表現を確立し、その作曲技法が円熟期を迎えていたことを示す重要な作品群として位置づけられています。これらの楽曲は、今日でも多くの演奏家によって頻繁に取り上げられ、聴衆に愛されています。

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