ヘイズ・コード

ヘイズ・コードの概要

ヘイズ・コード（英語: Hays Code）は、アメリカの映画業界で1934年から1968年まで施行された自主規制のガイドラインです。映画製作配給業者協会によって導入されたこの規制は、当時の映画が持つ社会的影響を考慮し、特に不道徳とされる表現を制限することを目的としました。名目上、個々の映画の内容を厳しく監視する検閲制度とは異なり、業界側が自主的に取り決めたガイドラインでした。

ヘイズ・コードの成立過程

この制度の起源は1929年に遡ります。カトリック信者であったマーティン・クィッグリーとイエズス会士のダニエル・A・ロード神父が、映画スタジオに向けて倫理規定を提案しました。彼らは、映画が特に子供に与える影響を懸念しており、業界が自主的に規制を設けることで、政府の介入を避ける狙いもありました。この規定は、道徳的に問題があるとされる描写を制限し、観客に正しい道徳観を伝える役割を果たしました。

当初、この規定には明文化されない禁止事項も多く、例えば同性愛の表現や性的描写の特定は禁止されていました。また異人種間の関係も禁じられ、観客に悪影響を及ぼさないように配慮が求められました。このように、ヘイズ・コードは映画における倫理観を強く影響を及ぼしていたのです。

ヘイズ・コードの実施

コードの施行は段階的に行われ、1930年代から1940年代にかけて多くの作品がこの規定に基づいて制作されました。しかし、映画制作の自由を愛する一部のスタジオや制作者は、規定に抵抗しました。この時期、多くの映画が暴力や性を描写している一方で、ヘイズ・コードを守ることが徐々に意味を失っていきました。

さらに、1930年代後半には世界恐慌が発生し、資金繰りを重視するスタジオは、規定に反する内容の映画を制作し始めました。結果として、ヘイズ・コードは「公然の秘密」となり、影響力が薄れていきました。

ヘイズ・コードの緩和とその後

1950年代に入ると、映画における性的な描写や暴力が徐々に許可されるようになり、観客もそれを受け入れるようになっていました。「或る殺人」や「007 ゴールドフィンガー」などの作品は、ヘイズ・コードの許可を得ることなく上映されました。たとえば、ビリー・ワイルダーの「お熱いのがお好き」は、女装をテーマにした内容にもかかわらず大ヒットし、映画界に与える影響は無視できないものでした。

1966年には「成人の閲覧が望ましい」とのラベルが付けられ、実質的にヘイズ・コードの役割は終わりを迎えました。1968年には代わりに新しいレイティングシステム（G, M, R, X）が導入され、ヘイズ・コードは完全に廃止されました。以降、映画は年齢制限に応じたレイティングに基づき、自由度を得ていくこととなります。

影響と評価

ヘイズ・コードは、アメリカ映画史において重要な役割を果たしてきました。今では多くの映画が規制を超えた内容を受け入れられるようになったものの、当時のガイドラインが与えた影響は非常に大きく、現代の映画産業における道徳観や倫理観にもその名残を感じることができます。ヘイズ・コードは、映画が持つ社会的責任についての議論を促し、今後の映像文化にどのように影響を与えるかを考えさせられる存在なのです。

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