ヘイル・トゥ・ザ・シーフ

レディオヘッド『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』解説

『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』（英語: Hail to the Thief）は、イギリスのロックバンド、レディオヘッドが2003年に発表した6枚目のアルバムです。UKアルバムチャートで初登場1位、USアルバムチャートで3位を獲得するなど、世界的に高い評価を受けました。

制作の背景

前2作のリリース後の世界ツアーの成功を受け、バンドはその勢いを本作に注ぎ込みました。制作は、トム・ヨークが作成した3枚のデモを基に、メンバー全員で楽曲を仕上げていくという形で行われました。制作途中でリスボンでの小規模なライブを行い、新曲を試すなど、実験的な試みも行われました。

今までのアルバムとは異なり、「1曲に時間をかけすぎない」「無闇に長い曲を入れない」といった制約が設けられ、ミニマルでリラックスした、かつ荒々しい作風が志向されました。トムは「結成以来初めて、アルバム制作中にメンバー同士で殺し合いになりそうになかった」と語っています。

サウンドの特徴

本作では、前作に引き続きラップトップコンピューターが使用されましたが、ジョニー・グリーンウッドによれば、電子音はロックフィーリングに合うようにルーズに使用され、前2作のような精緻な方法では用いられなかったとのことです。

タイトル

アルバムタイトルは、当初「The Gloaming」になる予定でしたが、最終的には2000年のアメリカ大統領選挙における一連の投票結果争訟の後、アル・ゴア支持者達がジョージ・W・ブッシュを批判する際に用いたフレーズ『Hail to the Thief（泥棒万歳）』を採用しました。これは、アメリカ大統領のための賛歌 『Hail to the Chief（大統領万歳）』 のもじりです。

収録曲について

全ての楽曲には副題が付けられており、楽曲の多様性を示唆しています。

2 + 2 = 5: ディストピア小説『1984年』からの引用で、グローバリズム資本主義への反発を歌った曲。
シット・ダウン。スタンド・アップ: 『OK コンピューター』の頃から存在する楽曲。
セイル・トゥ・ザ・ムーン: トムの息子ノアのために書かれたピアノバラード。
ゴー・トゥ・スリープ: ライブではジョニーのモジュールとギターのミュートスイッチによるソロが特徴的。
ウィ・サック・ヤング・ブラッド: 若者を洗脳し戦争に送り出す政府を歌った曲。
ゼア・ゼア: アルバムからのシングルカット。印象的なドラムのリズムが特徴。
アイ・ウィル: レディオヘッドの楽曲の中で最も短い曲。罪のない人々への悲劇を歌っており、トムは「最も静かな怒りに満ちている曲」と語っています。
ア・ウルフ・アット・ザ・ドア: ジョニーが作曲し、トムが歌詞を付けた曲。ベートーヴェンの月光ソナタを下敷きにしています。

まとめ

『ヘイル・トゥ・ザ・シーフ』は、レディオヘッドの音楽的な探求心と、社会に対するメッセージが込められた作品です。実験的なサウンドと政治的なテーマが融合した、聴き応えのあるアルバムと言えるでしょう。

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