ヘッドライト (映画)

『ヘッドライト』（原題: Des Gens Sans Importance ）は、1956年にフランスで公開されたモノクロ映画です。監督はアンリ・ヴェルヌイユ。セルジュ・グルッサールの同名小説を原作としていますが、映画では原作とは異なる焦点が当てられ、しがない人生を送る人々の悲哀が描かれています。特に、孤独な長距離トラック運転手と国道沿いの宿屋で働くウェイトレスの間に芽生える道ならぬ恋とその結末を、叙情的な筆致で綴っています。この作品は、1986年に蔵原惟繕監督によって日本で『道』としてリメイクされていますが、その内容は映画版のストーリーに基づいています。

物語の主人公は、妻子を持ちながらも単調な日々に倦むトラック運転手のジャンです。彼はパリとボルドー間を往復する過酷な長距離運転の途中、国道沿いに佇む「ラ・キャラバン」という名の宿屋で休憩をとります。その宿で、ジャンは二年前のある出来事を思い出します。クリスマスの夜、彼はいつものようにこの宿で仮眠をとっていました。そこで彼は、当時二十歳だったウェイトレスのクロ（クロチルド）と出会います。孤独を抱える中年男のジャンと若いクロは、やがて許されない関係へと深く踏み込んでいきます。

パリの下町で暮らすジャンの家庭は、妻や思春期の長女との間に常に言い争いが絶えず、安らぎのない場所でした。ジャンはクロとの密会のために時間をやりくりしますが、やがて会社の上司との衝突が原因で職を失ってしまいます。時を同じくして、クロはジャンの子供を身ごもったことを手紙で知らせますが、運命のいたずらか、その手紙がジャンの手に渡ることはありませんでした。パリに出てジャンの失業を知ったクロは、妊娠の事実を伝えることなく、危険な堕胎手術を受けてしまいます。クロの存在が家族に露見したジャンは、一切の財産を持たずに家を出て、臨時の家畜運搬の仕事を引き受けます。一方クロは、妊娠は気のせいだったとジャンに嘘をつき、彼と共に生きることを選び、トラックに乗り込みます。しかし、道中の「ラ・キャラバン」にたどり着いた時、クロは息絶えてしまっていたのです。

物語は二年の時を経て、再び「ラ・キャラバン」で休憩をとるジャンの姿に戻ります。宿の店主に起こされたジャンは、淡々とトラックに乗り込み、運転を再開します。家族のもとに戻ったジャンは、再びトラック運転手として、ただ静かに日々を過ごしていくのでした。

本作の原題『Des Gens Sans Importance』は、「重要性のない人々」と直訳されます。これは、映画の登場人物たちが社会的に注目されることのない、取るに足らないと思われがちな人々であることを示唆しています。しかし、原作であるセルジュ・グルッサールの小説は、映画とは異なる展開を見せます。

原作小説は、ジャンの妻ソランジュの死を取り巻くサスペンスが主軸です。ソランジュを自宅アパートの窓から突き落とした容疑で逮捕されたジャン。しかし、愛人クロはジャンの無実を知っていました。ジャンが仕事に出かけた直後に、クロはソランジュを訪ねていたからです。小説は、ジャンの無実を知りながらも警察に名乗り出ることをためらうクロの心理と行動、逮捕されたジャンの苦悩、そして周囲の人々の反応を追って展開します。実は、ソランジュは夫の不倫を知った衝撃から窓から身を投げ、自殺したのでした。しかし、クロの証言が警察に信じてもらえる保証はありませんでした。迷いの末、クロはかつて働いていた街道沿いの宿屋に身を隠しますが、それは風采の上がらない店主の妻になるという選択を意味しました。最終的にクロは警察に出頭し、ジャンは釈放されるという結末を迎えます。

脚本を手がけたフランソワ・ボワイエとアンリ・ヴェルヌイユは、原作における登場人物たちの緻密な心理描写を活かしつつ、物語の焦点をジャンの妻の死から、しがないトラック運転手とウェイトレスの間に生まれた悲劇的な愛へと再構成しました。この大胆な改変により、映画はより普遍的な孤独や哀愁を描き出す作品となりました。リメイク作である邦画『道』も、この映画版のストーリーラインに沿っています。

スタッフ

監督：アンリ・ヴェルヌイユ
製作：ルネ・ラフィット
脚本：フランソワ・ボワイエ、アンリ・ヴェルヌイユ
編集：クリスチャン・ゴーダン
撮影：ルイ・パージュ
音楽：ジョセフ・コズマ

（※キャスト名の記載はありません）

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