ヘルクラネウム

ヘルクラネウム：ヴェスヴィオ火山に埋もれた古代都市

ヘルクラネウム（Herculāneum）は、古代ローマ時代の都市遺跡で、現在のイタリア・カンパーニア州エルコラーノに位置しています。ポンペイ、スタビアエ、オプロンティスと共に、79年のヴェスヴィオ火山の大噴火によって火砕流に飲み込まれ、長らく地中に埋もれていました。この噴火によって、街は厚い火山性堆積物に覆われましたが、それゆえに当時の姿がほぼそのまま保存されるという奇跡的な状況が生まれました。

歴史

ヘルクラネウムの起源は、ギリシアの英雄ヘラクレスに由来するとも伝えられています。紀元前6世紀末頃には、サムニウム人の先祖がこの地に最初の文明を築き、その後ギリシア人の支配下に入りました。ギリシア人はこの地を貿易拠点として利用し、ヘルクラネウムと名付けました。紀元前4世紀には再びサムニウム人が支配し、同盟市戦争を経て紀元前89年にローマのムニキピウムとなりました。

79年のヴェスヴィオ火山の噴火により、ヘルクラネウムは溶岩、土、灰によって約20メートルの厚さで覆われ、1709年に偶然発見されるまで1600年以上も地中に眠っていました。発掘作業は現在も継続中で、当時の建築物や生活様式を垣間見ることができます。現在のエルコラーノの町は、古代都市を記念して、かつてのレシーナから改名されました。

この地の人々は、ヘラクレスを最も重要な神として崇拝し、ヴィーナスやアポロも信仰していました。特に、ヘラクレスは街とヴェスヴィオ火山を創造した神として、特別な存在でした。

79年の噴火

ヴェスヴィオ火山の噴火は、79年8月24日の午後に始まりました。約300年間活動を停止していたと考えられていた火山は、突如として噴火し、大量の火山灰と噴石を噴き上げました。この噴火の様子は、小プリニウスが歴史家タキトゥスに宛てた手紙によって詳しく記録されています。

最初の噴火では、南東の風に乗って火山灰がポンペイを中心に降り注ぎましたが、ヘルクラネウムは比較的被害が少なかったとされています。しかし、夜になると火山から大量の火砕流が発生し、時速160キロメートルの猛スピードでヘルクラネウムを襲いました。この火砕流は、400℃にも達する高温のガス、灰、石を含んでおり、街を壊滅させました。

海岸沿いのボートハウスでは、逃げ場を失った人々が火砕流によって命を落としました。この火砕流によって街は埋没しましたが、逆に、建物が大きく損傷することなく、良好な状態で保存されることになりました。

ヘルクラネウムの保存状態が良好だった理由としては、以下の点が挙げられます。

火砕流が建物を覆ったことで、屋根が潰れるのを防いだこと。
最初の火砕流の熱によって有機物の表面が炭化し、水分が取り除かれたこと。
* 厚く密度の高い凝灰岩が、約1700年間空気を遮断したこと。

発掘

発掘は1738年に始まり、当初は両シチリア王の支援を受けて、発掘された遺物の詳細な出版物が刊行されました。しかし、ポンペイの発掘が進むにつれて、ヘルクラネウムの発掘は中断されました。ヘルクラネウムは20メートルの堆積物に覆われていたため発掘が難しく、ポンペイは4メートル程度だったため発掘が容易だったためです。20世紀になって発掘が再開されましたが、現在も未発掘の部分が多く残っています。

人骨

ヘルクラネウムの住民は、ポンペイとは異なり、石膏で保存されることはありませんでした。1981年、排水溝の工事中に人骨が発見され、その後、人類学者サラ・C・バイセル博士による調査が行われました。この調査では、港湾地区のボートハウスで、逃げ遅れた人々の遺骨が発見され、彼らは噴火の際に助けを求めていたと考えられています。人骨の分析からは、当時の人々の健康状態や栄養状態、死因などを知ることができました。また、高濃度の鉛が検出された人骨もあったことから、鉛中毒の可能性も指摘されています。

パピルス荘

ヘルクラネウムには、多くのパピルス文書が発見されたパピルス荘と呼ばれる別荘もあります。これらのパピルスは、哲学や文学に関する貴重な資料であり、現在も研究が進められています。

保存の問題

発掘されたヘルクラネウムの遺跡は、大気にさらされることで徐々に損傷が進んでいます。特に、有機物の炭化物は空気によって劣化が進みやすく、初期の発掘では多くの遺物が失われました。現在では、保存技術の進歩により、遺物の保護が優先的に行われています。しかし、観光客による損傷や、エルコラーノの町から流れ込む水による基礎部分の侵食など、多くの課題が残っています。

現在、発掘作業は中断され、遺跡の保存に重点が置かれています。ヘルクラネウムで発掘された遺物の多くは、ナポリ国立考古学博物館に保管されています。

世界遺産

ヘルクラネウムは、ポンペイと共にユネスコの世界遺産に登録され、古代ローマの都市生活を今に伝える貴重な遺跡として、多くの観光客が訪れています。

SATOR AREPO TENET OPERA ROTAS

ヘルクラネウムの遺跡から発見された「SATOR AREPO TENET OPERA ROTAS」は、ラテン語の回文であり、古代の信仰や文化を物語る重要な資料です。この回文は、魔除けや宗教的な意味があったと考えられています。



ヘルクラネウムは、古代都市の姿を今に伝える貴重な遺跡であり、その歴史や文化を学ぶ上で重要な場所です。発掘と保存の努力によって、今後もその価値が守り伝えられていくことが期待されます。

もう一度検索