ヘンリー・ステュアート (ダーンリー卿)

ダーンリー卿ヘンリー・ステュアートの生涯

ダーンリー卿ヘンリー・ステュアート（1545年12月7日 - 1567年2月10日）は、スコットランド女王メアリーの2番目の夫であり、王配（King Consort）でした。初代オールバニ公、ロス伯でもあり、スコットランド王ジェームズ6世（イングランド王ジェームズ1世）の父としても知られています。

生い立ちとメアリーとの出会い

1545年、イングランドのヨークシャーで、第4代レノックス伯マシュー・ステュアートとヘンリー8世の姪マーガレット・ダグラスの間に生まれたヘンリーは、父方の血筋を通じてスコットランド王家との繋がりを持っていました。父レノックス伯は王室執事長アレグザンダー・ステュアートの末裔であり、また母方の祖母がスコットランド王ジェームズ2世の外孫であったため、有力な王位継承権を持っていました。しかし、1544年にスコットランドから追放され、イングランドへ亡命しました。

母マーガレット・ダグラスは、ヘンリー8世の姉マーガレットとアンガス伯アーチボルド・ダグラスの娘であり、女王メアリーの父ジェームズ5世の異父妹でした。野心家のマーガレットは、息子ダーンリー卿と女王を接近させようと画策し、1560年にメアリーの夫であったフランス王フランソワ2世の弔問にダーンリー卿を派遣しました。その後、メアリーがスコットランドに帰国すると、レノックス伯一家は復権を許され、帰国が認められました。

1565年2月18日、ウェミース城でメアリーとダーンリーは再会しました。メアリーは従弟のダーンリーに一目惚れし、彼の長身で均整の取れた体つき、ロンドン宮廷仕込みの優雅な物腰に魅了されました。また、ダーンリーは陽気で、メアリーと同じく狩猟を好み、リュートや詩、ダンスが得意で、ステュアート家の血を引くカトリック教徒であり、イングランド王位継承権も持っていました。

結婚への反対とエリザベス1世の妨害

メアリーはすぐにダーンリーとの結婚を考えるようになりましたが、この結婚は内外から多くの反対を受けました。プロテスタント貴族や国民は、カトリックの国王が誕生することに反対し、またレノックス伯に恨みを抱く者も少なくありませんでした。メアリーの異母兄であるマリ伯ジェームズ・ステュアートは、自身の権力失墜を恐れて結婚に強く反対し、イングランドのエリザベス1世に結婚阻止を依頼しました。エリザベス1世にとっても、メアリーとダーンリーの結婚はイングランド王位継承権をめぐる脅威であり、ダーンリーにロンドン帰還を命じ、母マーガレットをロンドン塔に幽閉しました。

エリザベス1世の妨害の背景には、メアリーが以前フランス王太子妃であった際に署名した二つの結婚契約書がありました。一つは、フランソワをスコットランド王として即位させ、両国を統合するというものであり、もう一つは、メアリーが子をなさずに死去した場合、スコットランドとイングランドの王位継承権をフランスに譲渡するというものでした。これらの契約書が明らかになったことで、メアリーとエリザベスとの間に生涯にわたる確執が生まれました。

結婚、マリ伯の反乱、不和

レノックス伯とダーンリー卿はエリザベス1世の命令を無視し、1565年7月29日にホリルード宮殿で結婚式を挙げました。しかし、メアリーは結婚後すぐに、夫が非常にエゴイスティックで野心家であることに気づきました。ダーンリーはメアリーに共同統治者としての地位と実権を要求し、浮気に走るようになりました。メアリーは結婚を後悔し、ダーンリーの傲慢な態度に怒りを募らせました。

リッチオ殺害事件

ダーンリーは、メアリーが秘書官デイヴィッド・リッチオと不倫していると疑うようになり、リッチオの権勢に反感を持つ貴族たちと共謀して、リッチオ殺害計画を実行しました。1566年3月9日、ホリルード宮殿で、リッチオはメアリーの目の前で刺殺されました。この事件は、メアリーを深く傷つけ、夫婦関係はさらに悪化しました。

王子誕生とさらなる不和、和解、そして不審な死

1566年6月19日、メアリーはジェームズ（後のスコットランド王・イングランド王ジェームズ1世）を出産しましたが、ダーンリーは息子の誕生を喜びませんでした。夫婦間の修復は困難となり、1567年、ダーンリーは病に倒れました。メアリーはダーンリーと形だけでも和解しようとしますが、ダーンリーはエディンバラにある旧司祭館カーク・オ・フィールドでの療養を希望しました。そして、1567年2月10日、カーク・オ・フィールドが爆破され、ダーンリーは死亡しました。

ダーンリー卿殺害の首謀者と動機に関する疑問

ダーンリーの死は、メアリーとボスウェルの共謀によるものという説がありますが、その真相は不明です。メアリーがボスウェルとの不倫の恋に盲目になっていたためにダーンリーを殺害したという説もありますが、不倫を主張する文書の信憑性には疑問が残ります。また、メアリーとボスウェルの結婚式は、メアリーが取り乱した様子であり、喜びに満ちたものではなかったことが記録されています。

「秘密の小箱」について

メアリーとボスウェルのダーンリー暗殺に関する証拠とされる「小箱の手紙」についても、偽造説が出ています。この手紙の文体や内容、そして状況証拠から、メアリーの関与を疑問視する声が上がっています。しかし、一方で、メアリーの息子のジェームズ1世が手紙を破棄していることから、本物であったとする歴史家もいます。

ダーンリー卿ヘンリー・ステュアートの生涯は、愛憎、陰謀、そして謎に満ちたものであり、スコットランドとイングランドの歴史に大きな影響を与えました。

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