ヘンリー・ミンツバーグ

ヘンリー・ミンツバーグ：実践を重んじる異色の経営学者

ヘンリー・ミンツバーグ（Henry Mintzberg, 1939年9月2日 - ）は、カナダを代表する経営学者であり、マギル大学デソーテル経営大学院のクレゴーン記念教授を務めています。彼は、純粋な理論家とは一線を画し、実践を重視する独自の視点から経営学を研究しています。

経歴

ミンツバーグは、マギル大学で機械工学を学んだ後、マサチューセッツ工科大学（MIT）スローン経営大学院で経営学の修士号と博士号を取得しました。1994年には、著書『The Rise and Fall of Strategic Planning』で、当時の戦略論を批判し、注目を集めました。

思想と研究方法

ミンツバーグは、理論のみに偏る経営学を批判し、実際のマネージャーの活動を観察・分析することで、独自の理論を構築してきました。彼の名を広く知らしめた『マネジャーの仕事』は、実際のマネージャーの活動に密着した調査に基づいています。彼は、経営における芸術的側面や直感などの右脳的な要素を重視し、マイケル・ポーターのような理論偏重の経営学を批判しています。また、既存のマネージャー育成方法にも疑問を呈し、独自の教育プログラムを立ち上げるなど、実践的なアプローチを追求しています。

マネジャーの役割

ミンツバーグは、マネージャーの仕事を以下の10の役割に分類しました。

対人関係に関する役割
看板（figurehead）：組織の代表としての役割
リーダー（leader）：部下を指導し、動機づける役割
リエゾン（liaison）：組織内外の関係者と良好な関係を築く役割
情報伝達に関する役割
監視役（monitor）：組織内外の情報を収集し、分析する役割
散布者（disseminator）：情報を組織内に伝達する役割
スポークスマン（spokesperson）：組織の代表として外部に情報を発信する役割
意思決定に関する役割
企業家（entrepreneur）：新しい事業や改善策を企画する役割
妨害排除者（disturbance handler）：予期せぬ問題や危機に対応する役割
資源分配者（resource allocator）：組織の資源を配分する役割
交渉者（negotiator）：組織内外の関係者と交渉を行う役割

古典学派への批判

ミンツバーグは、古典学派（管理過程学派）が提唱する管理職能論（POSDCORBなど）を批判しています。彼は、実際のマネージャーの行動を観察した結果、古典学派の理論が事実に反していると主張しました。

ミンツバーグは、以下の4つの点で古典学派を批判しています。

1. 有能な経営管理者は、決まった職責を遂行するだけではない。
2. 経営管理者の仕事は、必ずしも計画的に行われるものではない。
3. トップの経営者は、経営情報システム（MIS）に過度に依存しているわけではない。
4. マネジメントは、専門的な職業や科学ではなく、より複雑で創造的な行為である。

リバランシング・ソサエティ

ミンツバーグは、社会において政府セクター（public sector）、民間セクター（private sector）、多元セクター（plural sector）の3つのセクターが適切なバランスを保つことが重要であると主張しています。彼は、これらのセクターがそれぞれの役割を果たすことで、より健全な社会が実現すると考えています。

主な著書

ミンツバーグは、数多くの著書を執筆しており、その多くが日本語に翻訳されています。主な著書として以下のものがあります。

『人間感覚のマネジメント』（1991年）
『マネジャーの仕事』（1993年）
『戦略計画 創造的破壊の時代』（1997年）
『戦略サファリ』（1999年）
『MBAが会社を滅ぼす マネジャーの正しい育て方』（2006年）
『H. ミンツバーグ経営論』（2007年）
『マネジャーの実像』（2011年）
『戦略サファリ 第2版』（2012年）
『エッセンシャル版 ミンツバーグ マネジャー論』（2014年）
『私たちはどこまで資本主義に従うのか』（2015年）
『これからのマネジャーが大切にすべきこと』（2021年）
* 『ミンツバーグの組織論』（2024年）

ミンツバーグの著書は、経営学を学ぶ学生だけでなく、現役のマネージャーや経営者にとっても、実践的な示唆に富んだ内容となっています。

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