ベオグラード条約

ベオグラード条約は、1739年9月18日に現在のセルビア首都ベオグラードで調印された講和条約です。これは、1735年から始まったオスマン帝国とロシア帝国の戦争、そして1737年にハプスブルク帝国が加わった三国間の紛争、通称「オーストリア・ロシア・トルコ戦争」における、ハプスブルク帝国とオスマン帝国との間の停戦を定めたものです。

背景

この条約が結ばれる背景には、1730年代後半の東欧における勢力争いがありました。1736年、ロシア帝国は衰退傾向にあったオスマン帝国への軍事行動を開始。翌1737年には、ハプスブルク帝国もロシアに同調して参戦し、戦火は拡大しました。当初、ロシアの要請を受けたフランスが仲介を試みましたが、ロシアが過大な要求を出したためオスマン帝国が拒否し、和平は成立しませんでした。戦線が膠着し、どの国も決定的な優位を築けない消耗戦が続く中、再びフランスが和平交渉の仲介役を買って出ました。特にオーストリアは、交渉開始直前にはセルビアで占領地を拡大していたものの、オスマン帝国によるベオグラードの包囲に直面していました。オーストリア軍の指揮官たちは、ベオグラードの防衛が困難であると判断し、これ以上戦争を続ければさらに不利な状況に陥ると危惧。性急に和平交渉に応じることとなりました。

条約内容

ベオグラード条約の主な内容は、ハプスブルク帝国にとって厳しいものでした。オーストリアは、かつて1718年のパッサロヴィッツ条約でオスマン帝国から獲得した広範な領土の大半を放棄せざるを得なくなりました。具体的には、重要拠点であるベオグラードを含むセルビア王国全域、テメシュヴァールのバナト地方の南部、そしてボスニア北部がオスマン帝国に割譲されました。さらに、ワラキア公国（当時のオスマン帝国属国）にはオルテニア地方を譲り渡すことになりました。これにより、ハプスブルク帝国がこの戦争で失った領土は広範囲に及び、サヴァ川とドナウ川が新たな国境線として定められました。最終的に、オーストリアはパッサロヴィッツ条約で得た地域のうち、テメシュヴァールのバナトの一部を保持するにとどまりました。

影響

この条約は、その後の東欧の情勢に大きな影響を与えました。ハプスブルク帝国が戦線から離脱したことで、ロシア帝国は単独で戦争を続けることは難しいと判断しました。さらに、背後からのスウェーデンの脅威も考慮に入れ、ロシアはオスマン帝国との間で別途、ニシュ条約を締結しました。このニシュ条約において、ロシアは戦略的に重要なアゾフ港に要塞を建設する許可を得たことは、将来的な黒海への足がかりとして重要な意味を持ちました。一方、敗北によって領土を大きく失ったハプスブルク帝国の皇帝カール6世は激怒し、和平交渉を進めたウォリス元帥とナイペルク将軍を投獄しました。彼らが自由の身となるのは、カール6世の死後、娘のマリア・テレジアが帝位を継承してからとなりました。オスマン帝国側では、戦争継続を主張していた大宰相イェエン・メフメト・パシャが罷免され、和平を支持する勢力が台頭しました。仲介者であったフランスのフルーリー枢機卿は、同盟国であるオスマン帝国の弱体化という側面はありつつも、ロシアの地中海への進出、特にダーダネルス海峡やボスポラス海峡への接近を阻止できたことに満足したとされます。ベオグラード条約によって、1718年のパッサロヴィッツ条約以降、オーストリアの支配下にあったセルビア王国は実質的に消滅しました。セルビアが再びその独立を取り戻すための動きが本格化するのは、さらに約半世紀後の1787年に始まる墺土戦争を待たなければなりませんでした。

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