バナト

バナト：多様な歴史と文化が交差する中央・東ヨーロッパの地域

バナトは、中央ヨーロッパと東ヨーロッパにまたがる地理的、歴史的な地域名称です。パンノニア平原の一部を占め、現在ではルーマニア、セルビア、そしてわずかにハンガリーに領土が分割されています。南はドナウ川、西はティサ川、北はムレシュ川、東は南カルパチア山脈に囲まれた肥沃な平原は、古くから多くの民族が暮らす多様な土地でした。

バナトの名称と由来

「バナト」という名称は、スラヴ語起源の言葉「バン（ban）」に由来します。「バン」は太守や総督を意味し、バナトは「バンが治める辺境地方」を指す言葉でした。中世ハンガリー王国では、いくつかのバナトが存在し、ダルマチアやスラヴォニアなどもその一つでした。しかし、オスマン帝国との戦争を経て、これらのバナトは消滅していきました。なお、1920～30年代のユーゴスラビア王国の自治体「バノヴィナ」も、この「バナト」に語源を見出せます。

多様な民族のるつぼ

バナト地域は、古くから様々な民族が混住する地域でした。セルビア人、ルーマニア人、ハンガリー人、ロマ人、ドイツ人（バナト・シュヴァーベン人）、クロアチア系住民、スロバキア人、バナト・ブルガリア人、チェコ人など、多くの民族が小集団を形成して暮らしていました。これらの民族の混住は、独特の文化と歴史を育んできました。バナトに住む人々は、総称して「バナト人」と呼ばれます。

バナトの歴史

初期

バナトの最古の住民は、サルマタイ族の一派と考えられています。その後、ダキアの一部となり、ローマ帝国の支配下に入りました。ローマ人は防衛拠点の建設は行いましたが、大規模な植民は行わず、支配は長く続きませんでした。ローマ帝国の撤退後、サルマティア人とゴート族が支配し、フン族、ゲピド族、アヴァール族と、支配者が入れ替わりました。9世紀にはカール大帝の遠征を受け、その後、ブルガリア帝国の一部となりました。

ハンガリー王国支配（10世紀初頭～16世紀）

10世紀初頭、マジャル族がカルパチア盆地を征服し、ハンガリー王国が建国されました。バナトはハンガリー王国の支配下に入り、テメシュ川流域は王権の及ばない地域となりました。14世紀にはオスマン帝国の脅威が迫り、バナトは重要な防衛線となりました。

オスマン帝国支配（1552年～1716年）

1552年、バナトはオスマン帝国に併合され、「テメシュヴァル州」となりました。オスマン帝国の支配下では、ハンガリー人の多くが逃亡し、セルビア人とルーマニア人が移住してきました。セルビア人による大規模な反乱もありました。

ハプスブルク帝国支配

17世紀後半から、バナトはハプスブルク帝国（オーストリア）の支配下に入りました。1716年の墺土戦争の後、完全にハプスブルク帝国領となり、軍事境界線下に置かれました。1751年には民政に移行し、マリア・テレジア女帝のもと、ドイツ人などの移住が促進されました。特に、シュヴァーベン地方からのドイツ人移住は大きく、バナト・シュヴァーベン人として知られています。1779年にはハプスブルク領ハンガリー王国に併合されましたが、1848年の革命後、一時的にセルビア人の自治地域となりました。1860年には再びハンガリー王国に併合され、1871年に軍事境界線が廃止されました。

20世紀以降

第一次世界大戦後、バナトはルーマニア、セルビア、ハンガリーの3国に分割されました。1918年には一時的に「バナト共和国」が成立しましたが、短期間で崩壊しました。現在の国境は、ヴェルサイユ条約とトリアノン条約によって確定されました。

バナトの地理と経済

バナトは、ルーマニア、セルビア、ハンガリーそれぞれの領土において、異なる特徴を持っています。ルーマニア領バナトは南部が山地で、北部は平野となっています。農業が盛んで、小麦、トウモロコシ、ブドウなどが生産されています。また、鉱物資源も豊富です。セルビア領バナトは平野が多く、農業が主要産業です。鉱物資源としては石油や天然ガスがあります。ハンガリー領バナトは、バナト全体のごく一部を占めています。

バナトの象徴と主要都市

バナトの伝統的な象徴はライオンです。ルーマニアとセルビアのヴォイヴォディナの紋章にもライオンが描かれています。主要都市としては、ルーマニアのティミショアラ、レシツァ、ルゴジ、カランセベシュ、セルビアのズレニャニン、パンチェヴォ、キキンダ、ヴルシャツなどがあります。

まとめ

バナトは、その複雑な歴史と多様な民族構成によって、独特の文化と魅力を併せ持つ地域です。多民族が織りなす歴史と文化、そして豊かな自然は、バナトを魅力的な場所としています。

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