ベオルンウルフ (マーシア王)

ベオルンウルフ（マーシア王）

九世紀のアングロサクソン七王国時代、マーシア王国の玉座に短期間（823年-825年）就いた人物がベオルンウルフです。彼の統治期間はわずか二年ほど、あるいは一部の記録によれば三年弱でしたが、この時代はマーシア王国がアングロサクソン社会における長らくの優位性を失い、後に統一イングランドの基盤を築くウェセックス王国が台頭していく重要な転換点にあたります。

出自と王位継承

ベオルンウルフの正確な出自については、多くの七王国時代の王と同様に不明な点が多いです。しかし、一部の史料によれば、彼の父はベオルートウェルドという名のマーシア貴族であり、エアルドルマン（伯）の地位にあったと伝えられています。王位に就く以前のベオルンウルフの名前は、812年のコエンウルフ（チェンウルフ王）の勅書や823年のチェオルウルフ王の勅書にも見られますが、これらの勅書に記された人物が特に高い地位にあったという証拠はありません。これは、彼が有力な王族出身ではなかった可能性を示唆しているとも考えられます。

823年、ベオルンウルフは当時のマーシア王チェオルウルフを追放し、王位を奪取しました。この時期、ウェールズ北部のポウィス地方はすでにマーシアの支配下に置かれていましたが、ベオルンウルフが王位を継承する以前から政権を掌握していたのか、それとも王位継承と同時期に実権を握ったのかは明確ではありません。しかし、ベオルンウルフが先代のチェオルウルフよりも精力的な人物であり、積極的に軍事行動を行った可能性が考えられることから、ポウィスの完全な支配は彼の治世の比較的早い段階で確立されたのかもしれません。

治世の活動と転機

王位に就いたベオルンウルフは、宗教的な事業にも関わりました。彼は、後に名高いグロスター大聖堂となる聖ペテロ修道院の建設に着手したとされています。また、824年と825年には、当時のカンタベリー大司教ウルフレドと共に、クロフェショ（場所は特定されていませんが、ロンドン近郊と考えられています）で開催された教会会議を主宰しました。これは、彼が世俗的な権力だけでなく、教会組織に対しても影響力を行使しようとしたことを示唆しています。

しかし、彼の治世の最も決定的な出来事は、825年に発生しました。ベオルンウルフは西方のライバルであるウェセックス王国に軍事侵攻を試みました。この侵攻は、イングランド南東部のエランダン（現在のウィルトシャー州付近）でウェセックス王エグバートの軍勢と衝突しました。このエランダンの戦いは、マーシア軍にとって壊滅的な敗北に終わりました。また、時を同じくして、ウェセックス王エグバートの息子であるエゼルウルフはケント王国に進攻し、それまでマーシアの影響下にあったケント王バルドレドを追放しました。

マーシアの衰退とベオルンウルフの最期

エランダンの戦いでの敗北とケント喪失は、マーシア王国のイングランド南部における勢力圏に深刻な影響を与えました。長年マーシアに従属していたエセックスやサセックスといった地域は、これ以降、ウェセックスのエグバート王に忠誠を誓うようになりました。さらに、マーシアの支配から逃れていたイースト・アングリアの王アセルスタンは、ウェセックスの支援を得て故地に帰還し、マーシアへの抵抗を開始しました。このような情勢下で、マーシア国内でも動揺が広がり、反乱が発生したと考えられています。

ベオルンウルフは、おそらくこのイースト・アングリアか、あるいは他の地域で発生した反乱を鎮圧しようとする最中に殺害されたと伝えられています。これにより、彼の短い治世は唐突に終わりを迎えました。現存する一部の勅書には、その治世が825年までのおよそ3年間続いたとする記述も見られますが、いずれにせよ極めて短い期間でした。

コインの発行

ベオルンウルフは、自らの名と肖像を刻んだコイン（ペニー銀貨）を発行しました。これは当時の王権を示す重要な行為でしたが、彼の治世があまりに短かったため、これらのコインの流通は限定的なものに留まりました。そのため、今日彼の発行したコインを目にすることは非常に稀であり、現存する数はわずか25枚程度のサンプルしか確認されていません。これは彼の治世の短さとその悲劇的な結末を物語る貴重な史料とも言えます。

ベオルンウルフの短い統治は、マーシアの覇権終焉とウェセックスの台頭という、アングロサクソン七王国時代の歴史における重大な転換点と重なっており、その後のイングランドの歴史の流れを決定づける一連の出来事の中で、彼は翻弄される形で表舞台から姿を消すこととなりました。

もう一度検索