ベッチ・カルヴァーリョ

ベッチ・カルヴァーリョ：サンバを愛し、サンバに生きた女性

ベッチ・カルヴァーリョ（1946年5月5日 - 2019年4月30日）は、ブラジル・リオデジャネイロ出身のサンバ歌手です。本名はエリザベッチ・サントス・レアウ・ヂ・カルヴァーリョ。ベッチはエリザベッチの愛称として親しまれていました。

人物

ベッチ・カルヴァーリョは、富裕層出身の白人女性でありながら、貧困層の黒人音楽であったサンバを世に広めたことで知られています。彼女の音楽に対する情熱と才能は、サンバ界に大きな影響を与えました。

1980年代には、Fundo de Quintal（フンド・ジ・キンタル）や、そのメンバーだったJorge Aragão（ジョルジ・アラガゥン）、Almir Guineto（アルミール・ギネト）といった、後のサンバ・パゴーヂを担うミュージシャンたちを積極的に紹介し、サンバ・パゴーヂの発展に大きく貢献しました。

また、サンバはリオデジャネイロのものという固定観念を覆し、1990年代以降はサンパウロのサンバ、2007年にはバイーアのサンバなど、ブラジル各地のサンバを取り上げ、その地域で活躍するミュージシャンを発掘・紹介しました。

これらの功績から、ベッチ・カルヴァーリョは「サンバのゴッドマザー」として、サンバ界における重要な人物の一人として、多くの人々に尊敬されています。

彼女はボタフォゴの熱狂的なサポーターであり、労働民主党（PDT）の支持者としても知られていました。また、ブラジル国内だけでなく、リスボン、パリ、アテネ、ベルリン、マイアミ、サンフランシスコなど、世界各地で公演を行いました。

多くのオリジナル・アルバムは、誰かに捧げられたものであり、彼女のサインとともにその旨が記されています。

生い立ち

ベッチ・カルヴァーリョは、父ジョアン・フランシスコ・レアウ・ヂ・カルヴァーリョと母マリア・ナイール・サントス・レアウ・ヂ・カルヴァーリョの娘として、リオデジャネイロの北部、ガンボア地区の産院で生まれ、ラランジェイラス地区で育ちました。姉妹にヴァニア・サントスがいます。また、一人娘のルアーナがいます。

音楽が常に身近にある家庭で育ちました。祖母はバンドリンとヴィオラゥンを演奏し、母はクラシックピアノを演奏していました。父は弁護士でしたが、ボヘミアンな一面もあり、歌手のシルヴィオ・カルダスとは旧知の仲で、ベッチの誕生日には家でショーを開いていたといいます。また、国民的歌手のエリゼッチ・カルドーゾやアラシ・ヂ・アルメイダなどの歌を聞いて育ち、親交を深めました。父はベッチを、ウルカの丘にあるカザブランカやナイト・アンド・デイといったクラブにも連れて行き、店の女主人であるヴァヴァーおばさんを通じて、様々な歌手のショーを見せました。さらに、エスコーラ・ジ・サンバ（サンバチーム）の練習にも連れて行きました。

7歳にしてラジオに出演したというエピソードも残っています。また、母の勧めでバレエを習ったり、音楽学校でヴィオラゥンを習ったりしました。幼い頃からジョアン・ジルベルトの物真似をしていたそうです。

デビューと活動

10代の頃から、学生コンサートでボサノヴァを歌うようになり、当初はボサノヴァ歌手として活動を始めました。当時、サンバは黒人音楽という認識が強く、ボサノヴァは中流階級の若者によって作られた音楽でした。そのため、白人であるベッチがボサノヴァを歌うのは自然な流れでした。

カトリック大学（PUC）に進学し、国際関係学と心理学を専攻する傍ら、1965年にRCAレーベルからシングル「Namorinho」でデビュー。翌年にはオス・ガトスのアルバムにコーラスとして参加しました。この頃から黒人系のサンバにも関わるようになり、ネルソン・サルジェントやノカ・ダ・ポルテーラといったサンビスタのショーにも参加するようになりました。

1968年にはEMIオデオン専属のソロ歌手として独立。同年、ブラジル各地で歌謡祭やフェスティバルが数多く開催され、ジャーナリストのアルマンド・エンヒッキが提唱した、ブラジル独自のアコースティックサウンドに回帰しようというムーブメント「Música nossa（ムジカ・ノッサ）」が起こりました。ベッチは第3回国際歌謡祭で「Andança」を歌い3位に入賞。この曲が観客に受け、ゴールデン・ボーイズをゲストに迎えて録音され、翌1969年に同タイトルのアルバムを発売し、TV Globoに出演。その後も、様々なテレビ番組に出演し、黒人サンビスタのネルソン・サルジェントとも共演しました。

チジューカ地区に引っ越したことがきっかけで、次第に黒人サンバに傾倒していきます。1973年のアルバム「Canto Por Um Novo Dia」では、多くの黒人サンビスタの曲を取り上げ、サンバ歌手としてのベッチの姿を見ることができます。サルゲイロ、エスタシオ・デ・サ、マンゲイラといったエスコーラに出入りするようになり、ネルソン・カヴァキーニョを師としてサンバを学びました。

1976年にRCAに移籍後に出したアルバム「Mundo Melhor」（すばらしき世界）が大ヒットし、黒人サンバが広く受け入れられるようになりました。

パゴーヂ・ブームへの貢献

Cacique de Ramos（カシーキ・ジ・ハモス）という団体にも頻繁に出入りし、カーニバルのパレードに参加する中で、フンド・ジ・キンタルや、そのメンバーであるジョルジ・アラガゥン、アルミール・ギネトなどと親交を深めました。

サンバには、リオのカーニバルのような大規模なものとは対照的に、庶民の家の裏庭で開かれるホームパーティーで演奏される「Pagode（パゴーヂ）」というスタイルがあります。ベッチ・カルヴァーリョは、1978年にジョルジ・アラガゥンの曲を初めて紹介し、以降も新進気鋭のサンビスタの作品を積極的に歌い、自身のショーのバックミュージシャンとして起用することで、彼らを世に広く紹介しました。

ベッチ・カルヴァーリョがサンバ・パゴーヂを世に広めた功績は計り知れません。彼女の貢献により、多くの才能あるサンビスタがデビューし、成功を収めました。1990年代には、ロマンチックなバラードを取り入れたパゴーヂバンドが多数登場しましたが、その源流はベッチ・カルヴァーリョにあると言えるでしょう。

彼女は長年マンゲイラを愛し、マンゲイラ主催のショーには毎回出演し、リオのカーニバルでも山車に乗ったり、パレードに参加するなど親密な関係を築いていました。しかし、2007年のカーニバルで、マンゲイラの山車に乗ろうとした際、ディレクターに拒否され、長年参加してきたカーニバルに出場できなくなるという事件が起こりました。

2019年4月30日、敗血症のためリオ・デ・ジャネイロ市内の病院で亡くなりました。

ベッチ・カルヴァーリョは、サンバを愛し、サンバに生きた女性でした。彼女の音楽と情熱は、これからも多くの人々に感動を与え続けるでしょう。

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